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タイガー&ドラゴン 第5話

塚本高史 2007. 11. 20. 23:44

タイガー&ドラゴン 第5話

『厩火事』

本日、オープニングで高座に上がったのは、
バスガイドのメグミ(伊東美咲)!
出囃子はメグミだけに、アニメ・魔女っ子メグちゃんの主題歌ですね。
『魔女っ子メグは~魔女っ子メ~グは~、 
 あなた~の心に~、忍び込む♪』でしたっけ?(笑)
メグミのテーマソングにピッタリです!
そのメグミ、バスガイド姿で手を振りながらの登場です。


客席からは拍手とフラッシュの嵐。
メグミは旗をミニスカートの上にかけ、
「どぉこ見てんのよ!」と一喝。
「本日のガイドを務めます、メグミです。
 只今より皆様を、素敵な素敵な落語の世界へご案内しまーす。」

メグミと一緒に席を立ち上がる観客。寄席ツアーご一行様となる。

「こちらをご覧下さい。
 前座の皆さんは、自分達の出番が終わると、師匠の身の回りの世話を
 しながら、楽屋話に付き合います。これも、仕事のうちです。」


「師匠、携帯買ったんですか~!?
肩揉みしながらうどん(浅利陽介)が尋ねる。
「買った~。エヘヘ。小百合ちゃんに、メ、メール?
 ちょっとやってみたいな~と思ってるんだけど。」
林屋亭どん兵衛こと谷中正吉(西田敏行)が言う。
「僕やりましょうか?」
携帯を受け取りアドレスを尋ねるどんぶり( 深水元基)。
「そうか?じゃ、あの・・・
 小百合ちゃーん。いつもありがとう。」
「師匠。あの、アドレスは?」
「台東区浅草」
「まったまた、上手いな~!」弟子、大絶賛。
「え?上手い??」
「で、アドレスは?」
「だから、台東区浅草」

「噺家といっても生活が成り立っているのは一握り。
収入の少ない人はこのように、アルバイトに精を出します。」

銀次郎(塚本高史)と共に、本業に精を出す小虎こと虎児(長瀬智也)。
「てめ~コラッ!本番行為は罰金なんだよコラ!」
「バッキンガム宮殿にぶち込むぞ!コラッ!」
客にケリを入れる虎児。

「途中で挫折して、噺家を辞めることを、廃業と言います。」
【ドラゴンソーダ】店の前。
ツアー客はそんなことよりもメグミの写真撮影に必死。
店の中では店長・谷中竜二(岡田准一)がバイトのリサ(蒼井優)に
「コラッ!ブス!
 それじゃ~せっかくのタイガー&ウラハラドラゴンが隠れちゃうだろ!」
と売り物のTシャツの畳み方で文句を言う。
「スイマセン。」とリサ。
「中には彼のように、全く向いていない仕事を選んでしまう人もいます。」
竜二が振り返ると、リサがわざわざデザインが見えないように
畳み直している。
「直すなよっ!」
駆け寄る竜二にリサ、足蹴り!

「なかなか辛いものがありますよね。
 それでも、生の落語を聞いてみたいと思った方は、寄席に
 お越し下さい。
 落語のほかに、浪曲、手品、漫才なども」


そう説明をする前を横切る男女1組。
「もう~、歩きながらタバコ吸わないでって言ってるでしょう。」
そう注意する女性を怒鳴りつける男性。

「はい!気を取り直して、せーの、
 タイガー&ドラゴン!」


新宿流星会に、まるお(古田新太)がやってきた。
まるおは酒癖が悪く、酒が原因で傷害事件を起こして、
出所してきたばかりの芸人。
妻のまりも(清水ミチコ)と夫婦漫才のコンビを組み、
「上方まるおまりも」というコンビ名で活動していた。
組長(笑福亭鶴瓶)に仕事の方は、と聞かれ、
「やっと謹慎が解け、東京の事務所で心機一転、がんばろうって。」
まりもがそう答える。
「そうか。それやったら虎に送ってもらえ。」
組長はそう言うと、胸ポケットから封筒を取り出し二人に差し出す。
「いえいえ、そんなつもりで来たんじゃありません。」とまりも。
「出所祝いや。」と組長。
封筒がテーブルの上を行ったり来たりする。
「もらっといたらいいねん!」
まるおがそれを手に取り部屋を出ていく。
「あんたはほんまにもう!」まりもがまるおの後を追う。
虎児が部屋を出ようとすると日向(宅間孝行)は
「途中で酒屋へ寄れって言われても、聞こえないふりをしろ。
 酒が原因で傷害事件起こして出てきたばっかりなんだよ。」
と忠告する。

【車内】
「なんぼ入っとった?」とまるお。
「7万。」とまりも。
「歯切れの悪い。5万か10万かはっきりせーっちゅーの。」
「流星会もそろそろ潮時かしらね。」
虎児、咳払い。
「お兄ちゃん、コンビニ止まってくれや。」
「!!ダメだよまるちゃん!」まりもが止める。
目の前には酒を販売するコンビニ。車はそこを通り過ぎる。
「聞こえんかったか?」
「あぁ。次あったら停めますよ。」
虎児はそう答え、ラジオをつける。
「なんや?」
「あぁ。落語です。最近ちょっとハマってまして。
 寄席とか行ったことあります?
 あんたらみたいにイライラしている人にはぴったりですよ。
 寄席で思いっきり笑ったらすっきりすると思うけどな~。」
「あーそう。じゃ、今度行ってみようっか。」
まりもがまるおの肩に頭を乗せて言う。
「しょうもなっ!」

仕事を終え、寄席に走る虎児。
入り口にある看板の異変に気付き
「うん?」
貼られている写真を見て
「うん??」
車に乗せた、まりおとまりもの写真が貼られていたことに驚く。

めくりには『上方 まりもまるも』と書かれている。
寄席の前座に、にこやかに登場する二人を見て
「う"---ん!?」と虎児、唸る。
ドリカムの"Eyes to me"に合わせてまりもまるもが登場する。

※上方まるもまるおの漫才の再現は、あずスタさんの
タイガー&ドラゴン・第5話
をご覧下さい。
関西弁でバッチリ再現されています!
確認させていただいたら私のにはずいぶん間違いが。(汗)
関西弁話せる方が羨ましい!


「どうもどうも!浪速のドリカムこと、まりも」
「まるお」
「ですー!」
「こちらの可愛らしい方がまりもちゃん。」
「汚らしい方がまるもですー」
「何を言うてんのや、お前。」まるもに叩かれずれたかつらを直すまりも。
「亭主を立てろや。」叩かれてずれたかつらを直すまりも。

「おぉ!おぉ!あいつら何だよ?」虎児が隣の席の辰夫に聞く。
「なにって、漫才だよ。
 上方まりもまるもっていう、大阪の漫才師。」辰夫が説明する。
「なんだあいつ、漫才師だったのか・・・。
 で、漫才って何!?」

「これからも頑張っていかなあかんな~って言うてるんですけどもね。」
「あんたあんまり頑張らんでもよろし~で。」
「なんでやんな~」
「あんたが死んだら」
「私が死んだら」
「保険金がっぽ入るさかいに」
「やなこと言うな~お前は」
まりもの頭を叩くまるお。ずれたかつらを直すまりも。
「立てんかいな、亭主を」
まりもの頭を叩くまるお。ずれたかつらを直すまりも。

「まあね~、我々二人して夫婦漫才ってやってるんですけどもね。」
「仮面夫婦ですねん~」
「長いこと、」
「セックスレスですねん~」
「も~うね、」
「もうカッサカサですねん~」
「なんでせーへんか言うたら」
「よそに相手がおりまんね~ん」
「!!ちょっと待てコラあほんだら~」
まりもをど突くまりお。
「聞きづてならんな、君は~
 ワシはともかく君の相手って誰やねん」

「あんたのよう知っとる人やがな~」
「あ、ほならよろしいわ~」
「それにしてもがんばってほしいわ~楽天って思ってね、」
「・・・よろしないわ!」
まりもを思いっきりど突くまりお。会場も大笑い。

「何してんねん!漫才中やで!あんた!」
「漫才関係ない!いつやねん。いつの話や!!」
「あんたが善良な市民をど突き回して塀の中入っとった時が
 あったやろ?」

「何コラ!亭主が服役中にかい!」
「ちゃうわ!出てきたあとやがな」
「ほんまよろしいがな~」
「ほなここで一曲!」
「小糠雨降る御堂筋♪」
「よろしいことあかんがな~!」
まりもをど突くまりお。会場も大笑い。

「俺の話を聞け!!」
「その前にあんた、ど突きまわすのよしてくれんか~」
「なんでや~」
「今日はな、私服の刑事さんが見えてんのんて」
「まじか?どこだ、山田さんか?」
「小糠雨降る御堂筋♪」
「歌ってる場合かー!」とび蹴り!
「俺の話を聞け!今日という今日は許さんで。
 お前浮気しとたんか~?」

「してへんわ~」
「うそや~」
「うそやないわ~」
「うそや~」
「ほんまや~」
「うそや~」
「ほんまや~」
「うそや~」
「うそや~」
「ほな、よろしい。
・・・ええことあるかい!」


「あんた~!いい加減にし~や!」まりものビンタが飛ぶ。
まりもの逆襲に泣き出すまるお。
会場大爆笑。虎児も泣き笑いで拍手を送る。
「20年もコンビ組んどって、相方が信用出来んのか。ボケカス!」
「お母ちゃん許して~。堪忍や~。堪忍堪忍カンニンニン!」
「私が嘘ついてるときはな~」
「この人が嘘ついているときは」
「顔に出ます!」かつらを外し変な顔をするまりも。
「思いっきり出とるやないかい!」
「ま~りもとまりおは、お笑い夫婦です♪
 どうもありがとうございましたー!」

関西弁、かなり間違ってるかも。(汗)
古田さんと清水さんの漫才、すごい!本物の漫才師のようでした。
とくに古田さんの表情の強弱が素晴らしかった!
清水さん、叩かれて痛くなかったかな~!?(笑)



ネールサロンに竜二を付き合わせるメグミ。
つき合わせちゃって、ゴメンね、と謝るメグミに
「いいっすよ。気の持ちようだし。
 デートして爪も綺麗になるなんて、一石二鳥だ~!」と竜二。
「変なの。
 知り合った日から、半年過ぎても竜二君、手も握らないなんて。」
「そんな、『赤いスイートピー』みたいなこと言われてもね。」聖子ちゃん!
「男の子って、少し悪い方がいいのよ。」
「『渚のはいから人魚』じゃねーし。」キョンキョンですね!(笑)
「たまにはさ、竜二君が行きたいトコ、連れてってほしいな。」
「じゃ・・・俺んち?
 ・・・あ、ウソウソウソ。何言ってんだ、俺。」
「ねぇ!竜二君って、どこに住んでるの?」
「一応、青山です。」
「すごいじゃーん! 
 メグミね、青山で部屋探してるの。
 でも、家賃高いでしょ?」
「二人で住んだら、そうでもないっすよ。」
「竜二君ってさ、たまにずーずーしいよね。
 行こ!竜二君ち!」

【谷中家】
虎児が帰宅すると、賑やかな笑い声が食卓から響き渡る。
「おいおいおい!たまには待っててくれたって、
 ぶっほっ!!」
なんとそこに、まりもとまるおの姿があった。
「師匠!」
「なんだよ。」と、どん兵衛。
「あんたじゃねーよ、こっちの師匠だよ。握手してくれよ。」
虎児、まりおとまりもの手を取り、
「いや~~!面白かった!感動したぞ、え!?
 漫才なんて初めて見たけどよ、あれ、すげーな!
 勢いもあるしテンポもいいしよ~!
 落語見る前にあれ見てたら、俺あんたに弟子入りしてた。
 あれネタどっちが考えているんだよ。」と大感激。
「考えるも何も、あんなものただの痴話ゲンカだよ。
 20年ずっと同じことやってる。」とどん太。
まりおに睨まれ「カンニンニン!」とまりおの芸をマネする。

どん兵衛と小百合は、二人の仲人。
まりもは小百合の小唄のお弟子さんだったそうだ。
過去3回の逮捕歴があるというまりおは、元ボクサー。
1回目の逮捕のときは組長が保釈金を払ったらしい。

「なるほどね。あんたといい、うちの師匠といい、
 天才芸人っていうのは、私生活がむちゃくちゃなんだな。」と虎児。
「あらららら。師匠も仲間だってよ。」とどん太。
「兄さんは真面目すぎて今ひとつぱっとしないんだよ。」と虎児。
「浮気の一つぐらいしてな~。
 そうしねーと、芸にツヤっぽさが出ないんだよ。」とどん兵衛。
「変な事言わないで下さい~!すぐにその気になるんだから!」
どん太の妻・鶴子(猫背椿)。
「デリヘリ呼んじゃう5秒前でしたよ。」とどん太。

「まりおさん、あんた、まりちゃんに迷惑をかけちゃダメよ。」
小百合の言葉に
「大丈夫ですよ。もう昔とは違うんですから。」とまりも。
「本当にお酒やめた?」小百合が聞く。
「もう1年半、一滴も飲んでいません。」
まりおは隣でおいしそうにビールを飲む虎児をにらみながら
そう答える。

竜二の青山の自宅に向かうメグミ。
「すっご~い!いいとこ住んでるんだね~!」
「ごめん。そこ、スウェーデン大使館だから。」
「へ~!結構かわいいじゃーん!」
「え?うわぁ意外!竜二君、こんな和風なところに!」
「うわぁ、すごい!一軒家に一人暮らし?」
「どっこどっこ~♪どっこどっこ~♪」

・・・着いたところは、オンボロアパート。
6畳一間のその部屋。足の踏み場も無いほど散らかっている。
「家賃って、いくらですか?」
「6万5千円。他じゃあり得ないけど、青山だからね。」
「お風呂って、ないんですね。」
「うん。青山だから。」
「なんか、複雑な、カレーの匂いがしますね。」
「でも、青山だから!
 つーか、さっきから言葉に距離を感じるんだけど。」
「そんなことないよ。思ったより・・・普通。」
ベッドに腰掛けるメグミ。
「あー!そこは俺ん家じゃないから。」
竜二はそう言い、仕切られたカーテンを開ける。
押入れ上段部分に座り、
「谷中竜二の城へ、ようこそ。」
そこに、チビT(桐谷健太)がやってきた。
憧れのメグミに会えて大感激のチビT。

「一緒に・・・住んでるの?」
「違うよ!ここ(押入れ)だけ家賃払ってコイツから借りてるの。
 月7千円で!だからココは、俺の城
 あ、デザイン画見る?」
「竜ちゃん又俺のマンゴプリン食っただろう?
 夜中にクリープ舐めるのはいいけどちゃんと元に戻しておいて。
 あー!ここにあった65円がない!」
「知らねーよ。リュウさんじゃね~の?」
突然押入れ下段から男が飛び出してくる。
「リュウさんじゃないよ!竜ちゃんだよ!」
「リュウさんはそんなことしないいよ。
 竜ちゃんと違って真面目なんだよ。ね~!
 リュウさんは真面目なんだよ。毎月中国に仕送りしてるんだよ。
 今度やったら警察呼ぶからね!!」

3人が気付くとメグミは消えていた。

「まだ来たばっかじゃん!」竜二は引き止めるが
「ごめんね。竜二君。
 夢に向かって突っ走るのは素敵な事だし、
 こだわりを持つのは立派な事だと思う。
 でも、でも、
 貧乏は嫌なの!!
 嫌ーーーっ!耐えられなーーーい!!」
竜二を突き飛ばし、メグミは走り去る。

竜二君、ショックー!貧乏に負けた!?
メグミ、子供の頃貧乏で苦労したっていう設定でしたっけ?
これからそんな話が出てくるのかな。

ネールサロンでメグミに家賃の事を聞かれたとき
「二人で住んだら、そうでもないっすよ。」
と答えていましたが、こういうことだったんですね。
てっきり、一緒に暮らそうと言っているのかと思っていました。

チビTの警察発言がありましたが、このあと本当に竜二は警察のお世話に
なることに。


【ドラゴンソーダ】
「それでこんな、即身仏みたいになってんだ。」
リサから事情を聞いた虎児が答える。
「もう4日も声聞いてないんですよ。
 仕事の話しようとしても、全っ然ダメ。」とリサ。
「おい竜二、元気出せよ。
 今日はそんなお前に仕事の話持ってきたんだよ。
 ちょっと入れ~。」
「・・・まるおさんだ~。」
「久しぶりやないけ。」店に来たまるおが竜二に声をかける。
「しゃべった!」
「なんだ知り合いか。」
「昔よく遊んでもらった。」
「だったら話早いわ。この人らの舞台衣装作ってくんねーかな。
 俺最近、マネージャーみたいなことやってんだわ。」

竜二はまりもまるおの写真を手に、淡島(荒川良々)にも
『CLUB寄席』に二人を出してくれと頼み込む。
「危険なんですよね~。関西のお笑いって。
 しかも、ど突き漫才でしょ~?」と淡島。
「頼むーっ!!」と虎児。

「あんた噺家じゃん。何で他人の売り込みしてんの?」と竜二。
「面白いから。
 面白いものはよ、みんなが見て面白がるべきだと思うんだよ。
 寄席の客しか見られないのはもったいないだろ。
 俺だってよ、師匠の高座見て足洗おうと思った訳だし。
 洗えてねーけどよ。
 俺が好きなものはみんな好きなんじゃねーかなと思って。」
虎児の話を聞く竜二の顔に笑みが戻る。
「わかった。どうせ暇だし。
 今日中にデザイン描いて持っていく。」と竜二。
「言っとくけどよ~、だせードラゴンとかファスナーとか
 付けんじゃねーぞ。」
「だせードラゴンじゃねーよ。ウラハラドラゴンだよ!」
「どっちだっていいけどよ、カッケーもん作れよ。
 だせー物作ったらよ・・・ど突きますぅ」
そう言い虎児とまるおは帰っていく。

「さぁ忙しい!」と竜二。
「店長!」笑顔で話しかけるリサ。
「店番してろ、コラァ!」竜二はそう言い出かけていく。
このあとのリサの怒った顔!
だんだん銀次郎に似てきた気が・・・(笑)


【そば辰】
沢山の酒の瓶を目前に、落ち着かないまるお。
そんなまるおに、虎児は何で漫才師になったのか尋ねる。

「なりたくてなったんじゃない。」
「実家は兵庫の姫路。親はおらん。二人とも死んだ。
 おとんは借金を抱えて逃げ回り、おかんが水商売をして
 借金を返しながら育ててくれた。」

まだ小さいマルオにお金を握らせ
「今日は遅くなるから、温かいものでも食べてや。カンニンニン!」
と言い、千円札を握らせる母。


「わしは、おかんに楽させようと思ってボクシング始めたんや。」

「おかん!決まったで!デビュー戦。」
帰宅したマルオは、母が首をつっているのを発見する。


「おかんが死んで10日後、今度はおとんが、後を追うようにして
 海に車ごと突っ込んだ。
 あとはお決まりのコースや。
 中学を卒業して、キャバレーやストリップ劇場のボウヤになって、
 18の時に相方のマリモと知り合って、大阪に流れ着き漫才を始めた。
 思うたら、両親が死んでから、ワシはずーっと笑いっぱなしやった。
 笑う事と笑かす事しか、ワシの人生必要ないっちゅーてな。」

隣に座る虎児のうめき声を聞き
「なんだ気持ちわり~んか?」とまりお。
「泣いてんだよ。」と虎児。
「何でワシの話であんたが泣いてんの。」
「だって・・・
 途中まで俺と一緒で、後半、間逆なんだもん!」
虎児、顔中涙だらけ。
「関東と関西の、文化の違いじゃね~か?」と辰夫も涙。
「ますます気に入ったよ。
 俺がこれから頑張ってよ、もっともっと売り込んでいってやるからよ。
 な!さぁ、一杯!・・・蕎麦湯飲め。」
蕎麦湯を口にし、吐き出すまりお。

怖いイメージのまりおでしたが、彼にも悲しい過去があったんですね。
『カンニンニン!』は、大好きだったお母さんの思い出の口癖。
それを芸に取り入れ、笑う事、笑わせる事だけの為に生きてきた。
対する虎児は、両親の死後、笑う事を忘れて生きてきた。
虎児がまるおに共感を覚えるの、わかるような気がします。


その時虎児の携帯に、どん兵衛からメールが届く。
『今日のは梨わ馬や家事だ世、今から口座にXから欲見て翁』
「今日の、話は、厩火事だ、よ、今から、高座に・・・
 ちゃんと変換しろよ、おい!」
竜二は辰夫にまりおが酒を飲まないよう見張っておくよう頼み
寄席へと向かう。
メール覚えたての師匠からのメール。
変換違いに笑えます!
こう打つ方が難しいって。(笑)


高座に上がるどん兵衛。
「え~。相変わらずのお笑いでご機嫌伺います。
 夫婦喧嘩は犬も食わないなんてことを申しますが、」

虎児が席につく。隣の半蔵が
「お~、厩火事だね。」と言う。
「近頃は、DVなんて言葉をよく聞きますね。
 ドメスティック・バイオレンス。
 聞いているだけであんたね、2、3発引っ叩かれたような気分に
 なりますな。
 ま~、幸いな事に私は、自他共に認める愛妻家でございまして。
 まあそういう心配はございませんですな。
 ま、ただ一つ心配といえば、私の弟子に一人だけ、凶暴なのが
 おりましてね、その弟子にいつ引っ叩かれるか、
 それが心配でございます。
 ですから我が家のDVは、弟子・バイオレンスってとこでしょうか。」


「あれ、俺だ!俺俺!」満足そうな虎児。

「おぅどうしたんだい、お咲ちゃん。
 どうしたんだい?また夫婦喧嘩でもしたのかい?」
「そうなんですよ。私の姉弟子にね、おみずさんって人がいるんですよ。
 その人がね、指怪我しちゃったんですよ。
 だってそうでしょう旦那~。
 髪結いが指怪我しちゃったら、もうどうにもなんないでしょう。
 ですから、困ったときはお互い様ってんでね、
 私、代わりに行ったんですよ~。」


【とある病院】
「あら、まりちゃん!」
急に声をかけられて驚くまりも。声をかけたのは小百合だ。
「どうしたの?今にもつんのめりそうじゃない。」
「お姉さんは?」
「あ、定期健診よ。この年になると整備にお金かかって大変!」
「私も、検診!」

「それで家に帰ったらね、あの人が言うんですよ。
 お前どこを遊んでほっつき歩いていやるんだって。
 私も悔しいからね、言い返したんですよ。
 お前さん誰のお陰で昼間っから遊んでお酒が飲めるんだよ。
 そしたらね、あの人も男ですよ、負けちゃいませんよ。
 何を生意気言ってやんで~。この、オカメ!って言うから、
 私も、黙れ、ヒョットコ!って。
 そしたら、何を、この、般若!って。」


【純喫茶よしこ】
「24時間一緒だもんね。
 そりゃ、夫婦仲だって悪くなりますよ。」と小百合。
「私も舞台でど突かれるのは仕事だと思えば我慢出来るんです。
 でもね。
 朝起きてから夜寝るまで、ど突きばすぞーって言われて、
 もう、たまりませんよ。」とまりも。

「だったら、別れちまいなよ。
 私もね、お前さん達夫婦の仲人はしたものの、
 どーもあの男は気に入らなかったんだ。 
 この間もな、お前さんの留守に覗いたらな、
 あの野郎、刺身一人前とって、酒かっくらってやんだよ。
 お前さんが他人の分まで髪を結って稼いだ金で、
 とんでもねー野郎だ。」
「お言葉ですけど、何もうちの人、刺身を100人前とって
 長屋中に配ったって訳でもないし、
 お酒だって2升3升飲んで泡吹いてひっくり返ったって訳でも
 ないんですから。
 たかがね、お酒1合、刺身一人前のことで、そんな言い方、
 あんまりです!」
「おいおい何だよ何だよ。お前さんが別れたいって言うから・・・」


「おっ!厩火事だね。」
虎児の隣に辰夫が座る。

【そば辰】
その頃まりおは、酒に伸びる手と必死に戦っていた。
そこへ竜二が、衣装のデッサンを持ってくる。

【純喫茶よしこ】
「世界中探しても、こんな優しい人に出会えるのはこれっきりと
 思うほど、優しい時もあるんです。」

「そうかと思えばね、あんちくしょう、死んじまえばいいなんて思う事も
 あるんですよ。」


「要するに、あの人の気持ちがわからないんです。
 本当に私のことを愛してくれているのか。
 生活の為に、渋々連れ添っているのか。
 お姉さん、どっちだと思います?」

「お前さんにわからないもんを私がわかるわけないじゃないか。
 でもまぁ聞いてみりゃ~可哀想だからな。
 人の心の試しようってことがあるんだ。
 お前さん、もろこし(唐土)は知ってるかい?」
「知ってますよ、旦那。お団子でしょう?」
「中国だ、お隣の。
 その中国にな、孔子という偉い先生がいてな。」


「孔子って、誰?」虎児が辰夫に聞く。
「今からその話、するんだよ。」

「ハッハッハッハッハ」
孔子(まりお)が黒馬を引きながら家に戻ると、『孔子のいえ』から
家来衆が走って来る。
「先生!」「孔子様!」
「大変だよ!厩が火事になってしまったよ。」(虎児)
「なんだと!!」
孔子が厩を見ると、全焼した後が。
「孔子様の白馬に何かがあったら大変と、走ってきたけど
 遅かったよ。」(竜二)
「白馬に乗って行けばよかったのに、黒馬に乗るから。」(銀次郎)
「あいや~!火事を出した、我々のせいだよ。
 申し訳ありません!」(チビT)
家来衆たちは泣きながら詫びる。
「弟子のもの一同よ、怪我なかったか?」
「みな無事だよ。」
「そうか。それは何よりだったよ。」
家来たちは孔子の元に集り大泣きする。

「まぁ何てありがたいご主人さまだ。
 命を懸けて、この君に使えよう。
 こうなった訳だ。
 ところがな、反対の話もあるんだよ。

 麹町にな、去るお屋敷の若旦那がいてな。」
「は~、珍しい!お猿の若旦那ですか?」
「そうじゃないよ。
 名前が言えないから、去るってんだ。
 この若旦那、大変にまぁ、瀬戸物に凝っていてな。」


「おいメガネ。それは高価な器だから、家内が片付ける。」
使用人に高価な器を触らせない若旦那。(どん太)
「へ~。こ~んなヒビの入った鉢がね。」と使用人。
「ばか者!ヒビが入っているから、我々の手に入るのだ。
 入ってなければとてもじゃねーけど。」
鉢を持った妻が階段から足を滑らせ悲鳴を上げる。
「うわぁ!」若旦那が慌てて様子を見にいく。
「瀬戸物を壊しやしないか?鉢を壊しやしないか?
 瀬戸物を壊しやしないか?鉢を壊しやしないか?」

「その若旦那、瀬戸物を壊しやしないか、鉢を壊しやしないかって
 息も吸わずに36回叫んだって言うんだ。
 後日両親が尋ねて来て、娘を連れて帰ったっていうんだ。
 そりゃそうさ。女房の体より、瀬戸物の大事にするような男の所に
 かわいい娘を置いとけね~からな。」
「瀬戸物だったらうちの人が大事にしているのがあるんですよ。」
「おー。丁度いいじゃねーか。それ、壊しちまいなよ。」
「でも・・・もし、うちの人が、もろぼしだったらようござんすけど
 麹町のサルになった日にゃ~、
 旦那、一足先に家に行ってくれませんかね。」
「私がお前さん家に行ってどうするんだい。」
「今から女房が皿を割るから、必ず、体の方を心配するんだよって。」
「それじゃダメなんだよ~。」

観客、大笑い。虎児も大笑いで隣の男の肩を叩く。
それが辰夫と気付き、
「テメェ何やってんだよここで!まるおさんは!?」
「あ!置いてきた~~~!!」

『厩火事』と、まりお&まるも夫婦の話が同時進行で進められる。
時代も設定も違うけど、見事にリンクしていましたね!
まりもは夫に愛されているか、自信がないようです。
病院でのあの落ち込みようも気になります。



【そば辰】
「まるおさんも飲んでよ。一人で飲んでもつまんないっすよ。」
事情を知らない竜二がまるおに酒を勧める。
「今日はやめておくわ。まだ舞台残ってるから。」と言うが、
「昔は楽屋でも飲んでたじゃないっすか。」
竜二にビールを注がれ、一気飲み。「ふぁーーーっ!」と雄たけび。
「さすがっすね~!もう一杯!」
「ちょっ!!もう!!・・・焼酎に変えるわ。」
「ハイ、喜んで~!」

【よしこ】
小百合は帰っていくまりもに
「ねぇ、まりちゃん。あなた、本当に大丈夫?」と声をかける。
「おおきに。」笑顔を見せてまりもは店を出る。

【そば辰】
虎児と辰夫が駆けつけると、カウンターには酒の瓶がごろごろ。
そしてマルオは姿を消していた。

その頃。
まるおは竜二と飲み歩いていた。
「もう一軒行くぞ!」とまるお。
「もう金ないからさぁ。」と竜二。
「おっ!発見!」
まるおはそう言い、おでん屋台にかけられたビニールシートを勝手に外し
「竜、あったぞ~!」焼酎のボトルを見つけにっこり。
「ビートたけしはな、修行時代メチルを飲んどったんや。
 メチル飲んでな、ぶぁーっと走ったらな、酒がぶぁー回ってな、
 めっさお得なんや。」とまるお。
「寄席が始まるから行きましょう。」と言う竜二の言葉も聞かず
酒を飲み始める。
「お前ら何やってんだよ。」半蔵がやって来た。
「エイドリアーーン!!」突然、すごい勢いで走り出すまるお。
竜二もまるおの後を走る。

【寄席の楽屋】
間もなく「上方まるおまりも」の出番だというのに、まるおはまだ来ない。
不安そうなまりも。
「しょうがない。奥さん、私が行きましょう。」とどん太。
「よせよ。傷口に塩すり込んでどうすんだよ!」と師匠。
「私は塩ですか?ハイ、は・か・た・の塩!」
一同、し~ん。
「俺の責任!全部俺の責任だ。」と虎児は頭を下げる。
「ほんとかよ~。お前さんという者がついていながらこういうことに
 なっちまうんだから。」と師匠。
「てめ~が変なメールよこすからいけねーんじゃね~かよ。」
「出たよ!土下座の5秒後の逆切れだ!」とどん太。
「じゃ、私のせいかよ。」と師匠。
「そうじゃね~けどよ。
 携帯買ったからって浮かれてるんじゃね~って話だよ。
 俺、言ったんだよ、辰ちゃんに見張っとけって。おぅ!」
虎児が辰夫を睨む。
「しょうがね~だろう。
 どんちゃんの高座は欠かさず聞いているんだからよ。」と辰夫。
「やっぱり俺のせいじゃね~か。」
「やめなさいよ!!まりちゃん泣いているじゃないの!
 まりちゃん泣いたら、私だって泣いちゃうよ。いいの!?」
小百合が叫ぶ。
「嫌だ。それは絶対嫌だ。
 ・・・ごめんね。」みんなに謝る師匠。

街の中を走り回り、いくつかの看板をけり倒したあと、
「よし竜二。そろそろ時間だ。行くぞ!」とまるお。
「ホント無理だから。ベロベロじゃね~か。」
「わしは関西一の漫才師やぞ。これぐらいの酒で板に乗られへん
 訳がないっつーの。」
と言いながら、よろけて若者達にぶつかってしまう。
「痛ってーな、オイ!!」
「すみません。酔っ払っているんで。」
竜二が若者達に謝りその場は収まるかに見えたが
「ふらふらしてんじゃねーぞ。クソじじい。」
と言われ、まるおの顔つきが変わる。
「あー!?」

【寄席の楽屋】
「奥さん、そろそろネタ合わせをしましょうか?」とどん太。
「空気読みなさいよ。
 自分の女房ともかみ合わない男がよその奥さんと漫才なんか
 出来るわけないでしょう!」と鶴子。

「今聞くことじゃねーかもしんねーけどさ、
 馬小屋が火事になるやつの落ち聞かせてくれよ。」虎児が師匠に尋ねる。
「いた!俺より空気の読めない男!」とどん太。
「気になんだよ~。ダンナが大事にしている皿を割ろうってとこまで
 聞いたんだけど、その結果、どうなんだよ?」
「お咲ちゃんって女房が皿を割ると、亭主が言うんだよ。
 『おい、体、怪我はなかったのかい?
  瀬戸物は銭~出しゃあ、幾らでも買えるんだ。
  おまえさん、身体は大丈夫かい?』
 『うれしいじゃないか、お前さん。
  お前さんそんなに、私の体のことが大事なのかい?』
 『当たり前じゃねーか。お前さんに怪我でもされてみなよ。
 (外でパトカーのサイレンが鳴り響く)
  明日から、遊んで・・・』
 だめだよ。パトカーに全部持っていかれちゃっているよ。
 ・・・
 それにしても、なんか、近すぎないか?
 まさか!!」
外へ飛び出して行く師匠たち。
「ダメだ・・・全然わかんねー。」と虎児。

師匠たちは、警官に取り押さえられるまりおと竜二の姿を見る。
まりもはその場に倒れてしまう。
救急車を呼ぼうとすると、「救急車はダメ。」とまりも。
師匠と小百合は、虎児にまりもを車で家に送り届けるように言い、
自分達は警察に向かう。
「何だよ。全然話が見えねーよ。」と虎児は呟く。

【まりもとまるおの家】
氷にヤカンのお湯をかける虎児。
「何してんの?」目が覚めたまりもが尋ねる。
「冷やしていいのか、温めていいのかわかんねーからよ。
 とりあえず、常温でいいかなって。」
「ありがとう。もう大丈夫。」虎児の不器用な看病に微笑むまりも。
「さっきお母さんから電話があって、
 竜二は帰されるみたいだけど、まるおさんは・・・
 すみません。」まりもに謝る虎児。

一方、警察に竜二を引き取りに行った師匠と小百合。
小百合が警官に何度も頭を下げるのを見て竜二が言う。
「そんなに謝んなよ!何も悪くないって認められたんだからよ。」
「竜二。何のん気なこと言ってんだよ。
 まるおはな、刑務所出てからずっと酒断ってたんだよ。」と師匠。
「刑務所?」竜二が聞く。
「酔っ払って、人殴って、ついこの間まで入ってたの。」と小百合。
「みんなで更生させようって言ってたのに。それをお前・・・。
 何も悪くねーだ?冗談じゃねーや。
 お前はな、犯罪の片棒を担いだんだよ。共犯者だよ。
 どうせだったらお前、2、3年、入ってくればよかったんだよ。」と師匠。
「さっきまで泣きながら謝ってたじゃねーか。」と竜二。
「芝居だよ!芝居に決まってるじゃねーか。
 誰が、お前の為になんか泣くか。ばーか。」
師匠はそう言い、息子を置いて歩き出す。
小百合が慌てて夫の後を追う。
そんな二人の後姿を見つめ、竜二は何か考え込む。
『親の心、子知らず』と言いますが、
自分の為に泣きながら警察に頭を下げる両親の姿。
言葉の裏にある愛情。
竜二にも両親の気持ちが少し伝わったようですね。


【谷中家】
「今度という今度は愛想が付きました。
 あなたにも迷惑かけましたね。
 せっかく沢山仕事を取ってきてくれたのに。」
「いや別に。
 つーか、まるおさんのことを見捨てねーでくれないかな。
 悪い人じゃねーと思うんだよ。
 話聞いたら、あいつ俺といろいろ似ている所があってさ、なんつーか。
 俺はヤクザになるしかなかった人間で、
 今そんな自分と戦ってる最中でさ。
 まるおさんも、芸人になるしかなかった人間で、
 やっぱ戦ってんだよな。
 まぁ今回は酒に負けちゃったけどさ、悪い人じゃねーよ。
 だから、あの人が見捨てられるっていうことは
 俺も見捨てられるようなもんで。
 ・・・わかんねーな。」
「さっきからずっと考えてるの。
 瀬戸物を割って、亭主の気持ちを確かめるって話。
 いい話だな~って。
 でも、うちの人には何もない。お酒以外に大事なもの。
 だから、お酒止めたら私のこと大事にしてくれるかな~と思ったら、
 お酒に負けちゃった。」
「いや、あるさ。酒より大事にしているもの。」
「何?」
「漫才!」


小虎が高座に上がる。出囃子は『仁義なき戦い』。
「え~。夫婦喧嘩は犬も食わないなんて申しまして。」
「厩火事だね~。」観客席のそば辰が言う。
「おいっ!店はいいのかよ!?」
「心配すんな。ちゃんと暖簾閉まってきたから。」
会場から笑いが漏れる。
「え~。家庭内暴力のことをドメスティック・バイオレンス、略して
 DVなんて申しますが、今日は、家庭外暴力のお話です。
 え~、20年間舞台の上で嫁をど突いて生きてきたバカな男。
 ど突きバカ。略して、DV。」

会場から笑い声。
「上手いね~!」と辰夫・半蔵・よしこも笑う。

「まるおとまりもという夫婦がおりまして、いわゆるど突き漫才の夫婦。
 来る日も来る日もど突かれるうちに、女房は心配になっちゃったんで
 しょうね。
 『うちの人は、本当にうちのことを愛しているんやろうか。』
 っていう訳でね、亭主の確かめる為に、一芝居打つことになった訳です。


【純喫茶よしこ】
「じゃあさ、漫才の直前に怪我をすんべ。
 それで心配するかしないか。」
虎児が思いついた案を竜二とまりもに説明する。
「まんま、厩火事?」と竜二。
「今よりもっとと売れている頃に、私が本当にムチウチになったこと
 がって、」とまりも。
「おぅ。それでまるおさん、どうした?」と竜二。
「その痛めている首を集中的に攻撃してきました。」
「手ごわいね~。」と虎児。
「怪我ぐらいじゃ~怖気づきませんよ。せめて、末期がん位じゃないと。」
「それいい!
 ガンで余命何ヶ月とか言ったら流石に体心配するんじゃないの?」
と竜二。
「おお!そうだよ。
 それでもど突くようだったら、本物の暴力亭主だよ。
 別れた方がいい。どう?だいぶ有利じゃない?」と虎児。
「かなり趣旨が変わってきたような気もするけど。」
ガンと聞き、顔色が変わりました。場面は高座に戻ります。

「こうして意見がまとまりまして、いざ、作戦決行。
 タイガータイガーじれッタイガー!
(会場、し~ん!)
 おーし。
 という訳で、毎度おなじみの親分さんに保釈金を払ってもらって
 一日だけシャバに出れた訳です。」


「竜、悪いけど東京駅行ってくれるか?ワシ大阪に帰るわ。」
車の助手席に座る竜が、後部座席に座るまるおが言う。
「そんな・・・。いいんですか?奥さんに会わなくて。」と竜二。
「アホ!今更会わせる顔あるかい!まして漫才なんか出来るかい!」
「どうすんの?」と銀次郎。
「聞こえんかったか。行き先変更や!」

「や~べ~な。どうしようかな。言っちゃおうかな。
 いや、まずいか!」と竜二。
「なんや!?」とまるお。
「いや・・言っちゃおう!ガンなんですよ。」
「は?」
「知らなかったんすか?まりもさん、ガンなんですよ。
 まるおさんが刑務所に入っている間、ガンで入院していたんですよ。」
「ま~じで~!?やっべ~じゃん。何ガン?胃?肝臓?」と銀次郎。
「そこまでは知らね~よ。」と竜二。
「やっべ~じゃん。あとどれ位生きられるの?」と銀次郎
「半年、いや、3ヶ月とかいってたかな。」
「どっちだよ!半年と3ヶ月じゃ、エライ違いだよ~。」
「知らね~よ!ちょっと黙ってろよ!」竜二が銀次郎に怒鳴る。
「戻れ!さっき来た道引き返せって言うとんのや。
 はよ行かんかい!ど突き飛ばすぞ!!」

【CLUB YO-SE】
楽屋で夫を待つまりも。
「おっせ~な。何やってんだよ。」と虎児。
「あの、小虎さん!逆にして欲しいんです。
 いくら私が不治の病でも、そんなことで怖気づくような人だったら
 始めっから結婚なんかしていませんわ。
 私がガンでも、あの人がいつもの様にど突いてくれたら、
 私はこの先どんなことがってもついていきます。
 その代わり、ちょっとでも遠慮したり心配したら、
 そのときは・・・ 綺麗さっぱり、別れます。」
「・・・わかった。」そう答える虎児。

そこへ、竜二と銀次郎が到着する。
衣装がまだ途中だと言い手直しを始める。
まるおは既に着替えの準備中らしい。
「いいじゃない!」「お前にしては上出来だ。」
まりもも虎児も、竜二の服を誉める。
まりおの服は、真っ赤な大きな蝶ネクタイに黄色のスーツ。
まりおの服は、ピンクのワンピースに青・黄・緑の生地。

「あ、そう。病気の話、」竜二が言いかけると
「もう言わなくていい。」と虎児。
竜二を少し離れた所に連れて行き、
「逆になったんだ。まりもさん、いつも通りど突いて欲しいって。
 だからお前が何も言わなかったら、まるおさんはいつも通り
 ど突いてくれる。」
「もう遅いよ!言っちゃったっつーの、車の中で。」
竜二の言葉を聞き頭を抱える虎児。
「しょうがねーじゃん。大阪帰るとか言い出すしよ。
 なんだよ、又俺かよ!」

そこへ衣装に着替えたまるおがやってくる。
「まーちゃん。」まりもが笑顔で声をかける。
「まりさん。・・・君ガンなんか?」
うん、と頷くまりも。

ジャンプ亭ジャンプが上方まるおまりもの登場を知らせる。
「さ、話はあとで。行きまっせ。」まりもがそう言う。

「まぁ~どうもどうも。
 浪速のドリカムこと、まりもー!」

「・・・ま・・・」まるお、泣き出してしまう。
「まるおですー。
 (小声で)あんたの番やで」

「・・・こっちの、可愛らしい方がまりもちゃん。」(泣きながら)
「汚らしい方がまるおですー」
「・・・お前な、わしは汚らしい男や・・・」
「何もそんなに落ち込まなくても。漫才やで!」
「(何度も頷き)せやな。漫才や。漫才。いくでー。」
「はい、お願いしますー」
「こちらの、野に咲くバラが、まりもちゃん」
「こちらの、野に放たれた犯罪者が、まるおですー」
まるおは手をあげて叩こうとするが、出来ない。
「この通りや。わしみたいな犯罪者によう今まで付いてきて
くれたな。ありがとうな。おおきにな。アホー!」

まりおは泣きながら自分の頭を叩く。
夫の取り乱す姿に驚きつつ、観客の様子を伺うまりも。

「離婚だな。」と虎児。
「え!?」銀次郎が驚く。
「嘘なんだよ。奥さんがダンナ試してるんだよ。」
「やっぱり背中に銀色のライオン、」と竜二。
「うるせぇ!お前は黙ってろ。」と虎児。

「頑張っていかなあかんな~、言うてるんですけどね。」
「あんまり頑張らんでもよろし~で~」
「なんでやねん」
「あんたが死んだら、保険金ごっそり入るさかいに。」
「お前な~。ワシが死んで、保険金でまりちゃん楽させて 
 やりたいなぁ。
 何でわしみたいなウジムシが生き残って、まりちゃんが。」

号泣しだす夫に、妻のパンチが飛ぶ。
「あんた!ええ加減にせ~や!」
「何やさっきから。お客さんに失礼やろ!」
呆然と妻を見つめるまるお。
「すんまへんな~。この人いつもウチのことど突き回すから、
 ちょっとドッキリ仕掛けましてん。
 うちが不治の病でもうすぐ死ぬ~いうて、出の直前に言うとったら
 こないビビってもうて。」


ここから二人は観客に向かず、お互い向き合って話します。

「ちょっと待てー!なんやそれ。死ぬゆうのは嘘なんや?」
「嘘や!」
「嘘なんや?」
「嘘や!」
「嘘なんや?」
「ほんまや!」
「どっちじゃー!」
「あほか!うちが嘘ついて・・・
 うちが嘘ついてる時は・・・
 顔に出ます~!」
(かつらを外し、変な顔をしてみせる)

「やっぱり嘘だったんかー!!」
おもいっきりとび蹴りされるまりも。
会場、大爆笑。
「よくも亭主に恥かかせやがったな!」
「なんや!あんたみたいなろくでなしでも、女房死んだら
 悲しいんか!」

「当たり前じゃ~ボケ!お前が死んだらな、」

「明日っから、遊んでて酒が飲めへんやんけ~」

客席から拍手が沸く。
「よっ!さすが二つ目!やるじゃねーか!」辰夫が声をかける。
虎児は後ろの席に座るまりもとまるおに向かい、高座から拍手を贈る。
観客らも振り返り、一緒に拍手を送り出す。
まりもは立ち上がり
「おおきに!みなさん本当に、おおきに。」と礼を言う。
隣に座るまるおを立たせ、一緒に礼をと思うが、
夫にど突かれ客から笑いを取る。
「おおきに、みなさん。本当にありがとうございました。」
まりもは涙を浮かべながら、素敵な笑みを見せた。

その笑みが、遺影となった。

妻の遺影を見つめるまるお。
「安心して。あんたが出てくるまで、お線香は絶やしませんからね。」
小百合が言う。
棺に向かい、手を合わせようとしたとき、まるおは言った。
「カンニンニン。」

【純喫茶よしこ】
「まさか、本当にガンだったとはな・・・。
 だけどお前さん、本当に良い事をしたよ。
 だってそうだろう。
 あのまま別れてたらさ、それこそ本当に浮かばれないよ。
 最後に舞台で分かり合えたんだからさ。
 夫婦として、芸人として、思い残す事ないんじゃね~のか。
 だから、お前さん本当に立派なもろこしだよ。」
泣きながら師匠が虎児に言う。
「そんないいもんじゃねーよ。」
「そんな訳で、今回はね、授業料はね、いただきませんのでね、
 まぁお前さんから大事な事教わったから、
 授業料払いたいのは、むしろこっちだよ。ま、払わないけどね。」
「今月分の返済は?」
「だからそれなんだけどね・・・
 た、た、た、立て替えておいてくんないかな。」
「・・・わかったよ。今回だけだぞ。」
二人してオムライスを食べ始める。泣きじゃくる師匠に
「うるせ~。黙って食えよ!コノヤロゥ!」
「ふぇ~」

【刑務所】
「128番!終わったら食器を出せ!」
「(お椀を二つ胸に当て)井上和香!」
監視員はお椀を奪い、食器を片付け始める。
「ちゃんと突っ込めよおら~」
「勘弁して下さいよ、毎日毎日。」
「君とはもうやっとられませんわ~!」


あの笑顔がそのまま遺影となった時、彼女が死んでしまったと知り
悲しかったです。

夫婦って、20年の歴史って、深いな~。

最初は、自分が病気と知った時の夫の反応を見ようとしたまりも。
「それでもど突くようなら本物の暴力亭主だ。」と虎児も言いました。
まりもは、自分が夫に愛されているかどうか、自信がなかった。
夫の愛を確かめたかったんですね。

それが、本番直前に
「私がガンでも、あの人がいつもの様にど突いてくれたら、
 私はどんなことがってもあの人についていきます。
 その代わり、ちょっとでも遠慮したり心配したら、
 そのときは・・・ 綺麗さっぱり、分かれます。」
と考えを変えました。
この、心境の変化はなんでしょう。
20年夫と連れ添った夫婦。
夫ならきっとこうすると、確信があったんでしょうか。
夫を信じたい。夫とこれからも一緒に暮らしたい、という妻の決意が
見られます。

まりお&まりもの最後の舞台。
いろんな受け取り方があると思いますが、
私は舞台の上でまるおは妻の病気が本当だと気付いたんだと思います。

ボケ・ツッコミは、1度目と同じですが、今回は夫婦の素の会話。
途中から、観客に向かってではなく、お互い向き合って漫才を続ける。
まりもが涙をこらえながら、セリフを言ったあと、
夫婦は一瞬、見つめ合います。
あの時は、『芸人』ではなくて『夫婦』でした。
ほんの数秒ですが、そのとき夫には真実がわかった。
この一瞬の間が、すごくすごく長く重く感じました。

そのあとのカツラを思いっきり外し変な顔をする妻は、『芸人』でした。
きっとまりおには、妻が自分に期待していることが伝わったんですね。
だから、自分も芸人として思いっきりど突いたんだと思います。
そして虎児たちまでも大笑いするほどの爆笑を取った。
「なんや!あんたみたいなろくでなしでも、女房死んだら
 悲しいんか!」
まりもはこのセリフを嬉しそうに、幸せそうに言ったように
思いました。

御通夜でのまりおの「カンニンニン」。
まりおはまりもに何を詫びたんでしょう。
きっと、20年間の苦労をねぎらう気持ちと、感謝の気持ちだったんじゃ
ないかな~。

純喫茶よしこでの師匠と虎児のやり取りも良かった。
虎児から教わったと、師匠は授業料を受け取らなかった。
そして今月の返済を「立替てほしい」と言い出したとき、
また虎児がキレるかと思いきや、彼はそれを特別に了承。
虎児、いいトコありますね。

刑務所の中のまるおは、寂しさを紛らわすように、監視役相手に
毎日お笑いに精進していたんでしょうね。
最後に笑いで締めくくられていたのが良かったです。

いろんな人と出会い、話し、何かを感じることで、
小虎は「落語」をどんどん自分のものにしていきますね。