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タイガー&ドラゴン 第9話

塚本高史 2007. 11. 20. 23:51

タイガー&ドラゴン 第9話

『粗忽長屋』

第9話のオープニング。
本日高座に上がるのは、組長(笑福亭鶴瓶)!待ってました!
出囃子と共に、極道風(?)の歩きで登場です!


「え~。上方一笑いに、いえ、日本一笑いにうるさい極道、
 新宿流星会の組長で、おま。
 本来なら早くここに上げてもらいたい言うてたんだけどね、
 私が出るとあとが出にくいよってやね。
 いよいよ真打登場で、おま。」

会場席で鶴子(猫背椿)のひざの上に座る娘が泣き出す。
「子供は手~出せへんがな。銭持ってへんやさかいに。

 高倉健とかね、菅原文太みたいなヤクザ、あんな男前いてまへんで。
 ほんまもん、こんなんですわ。
 それかてアホが多いんですわ。
 若頭(わかがしら)って書いて、わかあたま、と読むヤツいてまんねや。
 アホやなほんまに。
 なに?早く本題に入れ?わかってるがな。
 枕がおもろいのが俺の特徴やないかい。
 入るっちゅーねや。

 ある長屋にね、まめでそそっかしいヤツと、不精でそそっかしいやつが
 隣りあわせで住んでいた。
 マメでそそっかしいヤツが浅草の観音さんに出かけまして、 
 いよいよ向こう絵、
 え?なになに?
 粗忽長屋や。俺の18番や。
 え?このあと、どんちゃんが粗忽長屋やんの?
 ・・・ほんなら、やめとくわ。

 タイガー&ドラゴンでおまっ!!」


関西弁、あやふやです~。(汗)
鶴瓶さん、流石ですね。もっと聞いていたかったです!
組長さんの十八番は粗忽長屋。
この話を初めて聞く私です。いったいどんな話になるやら!
オープニングからぐぐっと惹きつけられました。


虎児(長瀬智也)と竜二(岡田准一)は、新宿流星会を追われた
田辺ヤスオ(北村一輝)に再会する。
ドラゴン・ソーダの前で、不気味な笑みを浮かべ立ち尽くすヤスオ。
「ヤスオ・・・。テメェ何しに来たんだよっ!」
「メグミだったら今いねーぞ。ちなみに今は俺の彼女!」
虎児の背中に隠れていた竜二が一歩前に出てそう言い、
すぐに虎二の影に隠れる。
ヤスオが一歩一歩近づいてくる。
あと一歩で虎児が掴みかかろうとすると、ヤスオは店の中へと
急に方向転換。
店の中を見回したあと、虎児の胸倉を掴み、
「何か食わせて。」と力ない声で言う。虎児もびっくり!

ファミレスでビールと何品かを食べるヤスオに虎児は
堅気になるつもりじゃなかったのか、と聞く。
「最初はそのつもりだったけど、体が受け付けなくて。
 時給いくらだとか、朝のラジオ体操だとか。
 俺根っからの極道だからよ。
 で、さすがに新宿はまずいと思ってよ。」
ヤスオがウルフ商会と書かれた名刺を差し出す。
組長(笑福亭鶴瓶)の元舎弟・梶力夫(橋本じゅん)の立ち上げた
ウルフ商会。
「元々は関西系で、流星会との縄張り争いに敗れて新宿出てった
 組だしよ。
 再就職するには申し分ないと思って、世話になることにしたんだよ。
 そしたらすぐに力夫のおっさんに気に入られてよ、
 金庫番みたいなことやってたんだよ。」
「おいちょっと待て!何か嫌な予感がする。」と虎児。
「そーそーそー!使い込み。」
「うわぁ。罪悪感全然ゼロ。」竜二が下を向いて呟く。
「どういうワケかさ、みんな俺に金の管理させたがんだよ。
 管理できそうな顔じゃねーと思うんだけど。
 大体ね、いい加減なんだよ、セキュリティーが。
 普通預金に一括で入れてるしよ。
 これを少しずつちょろまかしてたらバレね~かな~と思って、」
「バレたんだろ!バレたから何か食わせろって、」と虎児。
窓の外を見たヤスオの顔色が変わり、皿を持ったまま店の裏口へ
姿を隠す。
虎児と竜二が窓の外を見ると、人探しをする人相の悪い男がいた。

裏口から店の外へ逃げ出したヤスオ。
「どうするよ?」虎児が竜二に聞く。
「どうするって、寄席あるんでしょう?」
「そりゃそうなんだけどさ、何か・・・面白そうじゃん。」
「はぁ!?何言ってるんすか?あんなめんどくせーヤツ、」
「そりゃそうなんだけどさ、落語の話としては面白そうじゃん。」
「小虎さん・・・」
「ここでめんどくせーとか言ってたらネタが一個損するっていうかさ、
 せめてオチまで聞かねーと高座にかけらんないっつーか。」
「うしろぉ・・・」竜二が呟く。
虎二の背後には、さっきの男がブロックを振り上げていた。
「まぁもうちょっと話を聞いてみるわ。」
虎児が無意識に振り上げた左手の拳が、その男の顔面にパンチ。
「おぉ!なんだよー。どうした?」
自分がパンチしたことも気づかない虎児。
倒れた男のお腹を突いてみる竜二。
二人はヤスオの後を追う。

最近の虎児は、私生活までがすっかり落語でいっぱいです。
フィクションが苦手な彼は、ネタのためにいろんな経験が必要なんですね。


「ったくー、やることが王道すぎんだろ。
 舎弟の首に賞金なんてかけやがってよー。
 しかも500万って。
 今時M1グランプリだって1千万貰えんのによ、チキショー。」
竜二の部屋でヤスオが説明を続ける。
ヤスオが使い込んだ組の金は500万。
その上、ヤスオは力夫の妻にも手を出すところが
監視カメラで撮影されていたのだ。
「誘ったのは姐御の方なんだよ。へっへっへ~。
 出されたものは食うっつーか。」
「動物!?」竜二があきれ返る。
「まあな、お前と会えてよかったわ。
 何だかんだいってオメーとは長いしよ。
 オメーもう流星会に未練ないって言ってたもんな。」とヤスオ。
「オメー何か勘違いしてねーか?
 俺はオメーの味方じゃねーぞ。」
虎児はヤスオに殴られまくった時のことを思い出す。

「お前親とかいねーんだろ。
 死んでも誰も悲しまねーよ。」


「あん時のこと水で流したわけじゃねーし。
 このまま力夫ってヤロウにお前を突き出すことも、
 なんならお前をぶっ殺して500万ふんだくることだって
 出来るんだぞ。甘くみるんじゃねーぞ、オイ!!」
「山崎、コノヤロー!」
二人が顔をつき合わせてにらみ合う。
その間で不安そうな竜二。
「メンチ切りあってるところスイマセン。
 もしかして、田辺さん、この部屋に」
「泊まるよ!」とヤスオ。
「泊めてやってくれよ!」と虎児。
「泊まるの困るよー!」と竜二と同室の中国人・劉さん(河本準一)。

竜二は、部屋の外の物音に気がつく。
ウルフ商会の哲也(猪野学)が泰次(少路勇介)に
「本当のこの部屋でいいのか?」と確認する。
「多分・・・」という泰次の頬を叩く哲也。
二人がドアを開け部屋に乗り込む。
そこには、中国人らしき男が一人太極拳をしている。
「ナニカヨーカ!?」
劉さんの言葉に男二人は部屋を出ていく。
自分の部屋(押入れ上段)に隠れていた竜二は下段のカーテンを開ける。
ヤスオ・虎児がメンチ切りあっていた。

虎児、うなってるし。(笑)
最近はすっかり噺家らしくまとまっていた虎児ですが、
ここにきて彼のヤクザな部分がクローズアップ。
迫力あるなー。


ヤクザ嫌いの劉さん(河本準一)の強い反対にあい、
虎児はヤスオを谷中家に連れていく。
谷中家。
師匠どん兵衛(西田敏行)が怖い顔でヤスオを見つめる。
「ていうワケでコイツ暫く俺の部屋に泊まりますから。」と虎児。
「よろしくっ。」ヤスオがタバコに火をつけながら言う。
「じゃ俺高座がありますんで。」虎児が席を立つ。
「お待ち小虎!ここに座んなさい!
 座ってくれってよ。座ってくれって言ってんじゃん!」
どん兵衛の顔がだんだん困った顔へと変わっていく。
師匠に頼まれ小虎が再び席に就く。
「うちはね、こういったあの~、ヤクザの方専門の
 下宿屋じゃないんだからね。
 一般家庭なんだからね。わかってほしいんだよね。
 ね、小百合ちゃんね。」
妻の小百合(銀粉蝶)は口を開けたままヤスオに見とれている。
「お前さんのヤクザと、こちらさんのヤクザとじゃ、
 同じヤクザでもヤクザが違うんだ。」と、どん太(阿部サダヲ)。
「ぐちゃぐちゃ言うな!コラァ!」
ヤスオに怒鳴られ睨まれたどん太。
「か・・・やだ何これ、金縛り!?
 はぅっ。目がそらせない。」と、その場から動けなくなる。
「田辺・・・さんとおっしゃいましたか?」どん兵衛が話しかける。
「なんだよっ。」
「うちにいらっしゃった方にはね、恒例でね、必ず自己紹介を
 することになってるんですよ。
 さっそくさせていただきます。
 私が家主のどん兵衛でございます。
 そして今固まっているのがですね、倅のどん太なんですよ。
 そんで孫のサヤとタロウ。
 そしてこっちが弟子になっております。
 どん吉、どんつく、どんぶり、でお前なんだっけ?」
「うどん・・・です。」
「うどんだって。バカだねー。」
どん兵衛が隣に座るヤスオに笑いかける。
ヤスオにタバコの煙を吹きかけられ、咳き込む。
「医者から、副流煙はするなって言われてんですけども、
 ま、そんな細かいことはどうでもいい。
 これが、嫁の鶴子でございます。これが家内の小百合でございます。」
俯く鶴子。
ヤスオが小百合に「よろしくね。」と笑顔でウィンク!
「動悸が・・・。」と小百合は胸を押さえる。
「じゃ、そういうことで。
 あ、こいつ手癖が悪いから現金だけは隠した方がいいですよ。」
虎児の言葉に部屋の男たちは一斉に自分の部屋へと駆け上がる。
固まったままのどん太に、鶴子は子供たちを連れて買い物に行くよう
言う。小百合はビールの用意を始める。

高座に上がるジャンプ亭ジャンプこと淡島(荒川良々)。
「ホップステップジャンプ!
 亭
 ジャンプです。
 先日、ヤングジャンプの取材を受けました。」


その頃楽屋では、どん兵衛の準備を手伝いながら、虎児が高座にかける
噺のリクエストをしていた。
「命を狙われてるヤクザの噺なんてない。」とどん兵衛。
「ヤクザじゃなくてもいいんだよ。お尋ね者とか。」と虎児。
「行き倒れだったら、『粗忽長屋』っていうのがある。
 浅草寺で、身元不明の遺体が見つかるんだ。」とどんつく。
「それでいいよ。それやってくれ!」と虎児。
「筋が通ってないよ、小虎。
 何で師匠が弟子のリクエスト受けなくちゃいけないんだ。」とどん吉。
「さすがの小虎の気づいちゃったんだよなー。
 似たような話を聞いておけば、いざっていう時に対応出来るんじゃ
 ねーかってよ。」と虎児が答える。

「そこで長老がバンジージャンプ!」

「うるせーんだよ、ジャンプジャンプって。
 あのヤロウ本当にもう。
 それより俺、小百合ちゃんが心配で・・・。」とどん兵衛。

谷中家。
着物を着込んだ小百合と、おしゃれ着に着替えた鶴子が
ヤスオに寄り添い酌をする。
「歌手だったんだ、トルコさん!」ヤスオが鶴子に言う。
「でも結婚してからは全然仕事してないんですよ。」鶴子が答える。
「もったいないなー。トルコさん。
 まだまだ若いのにトルコさん。
 家庭に入るからってもったいなすぎるよ、トルコさん。」
「あの・・・鶴子です!トルコじゃなくてー。」
「あ、ごめんごめん。あのほら、俺、トルコ人とのクォーターだから、
 つい、ね。」
「うぉー!」
「どーりで、ホリが深ーい!」と小百合。
「奥さんだって美人だよー。
 20年、いや、10年前に出会ってたらね、俺ね、
 過ちを犯してたかもしれないな。」
ヤスオの言葉にキャーキャー騒ぐ、小百合と鶴子。
「鶴ちゃん!お寿司取ろう。特上!」
「はい!」電話に駆け寄る鶴子。
「なんかすいませんねー。」とヤスオ。
「楽しいー!!」鶴子がはしゃぐ。
出前、頼んだのかな?(笑)
「なんか、酔っちゃったー。」小百合がヤスオの肩にもたれる。
「私もー!魔法にかかったみたいー。」鶴子もヤスオに寄り添う。

楽屋。
弟子たちに携帯メールの使い方を教わりながら
「小百合ちゃーん。とっても心配しています。」
と携帯に向かって言うどん兵衛。
「いやいやいや。打たないと。」
淡島が高座から戻ってきた。
「頼むぞ師匠。客席から見てっからよ。」
虎児がそう言い楽屋をあとにする。

高座に上がるどん兵衛。
「え。一杯のお運びで、ありがたく御礼申し上げます。」
「よっ!待ってました。鎖骨長屋!」虎児が掛け声をかける。
「鎖骨じゃねーよ。粗忽だよ!」と辰夫(尾美としのり)。
客席から笑いがおこる。

「聞くところによりますと、地球上に生息する人類は、
 ほぼ、61億、だそうですね。
 そのうちの、48億7500万人が、そそっかしい人間だってんですね。
 そそっかしい人間。
 よかったですね。今日のお客様、ほとんどそこから外れてますから。
 おめでとうございます。
 そそっかしい人間を、粗忽者、なんてこと言いますわねー。」

「おう!止めろよ!止めろよ、夫婦喧嘩は。」
「なんだよオメエ、裸足で飛び込んできやがって。
 夫婦喧嘩なんかしてねーよ。」
「してたじゃねーか今。カカァ出てけって怒鳴ってたじゃねーか。」
「怒鳴っちゃいねーよ。オメェ。
 オメェと俺は付き合い長いんだぞ。
 俺は今だに一人モンだよ。」
「あぁそうか。じゃ、何なんだろうな。」
「あれじゃないかと思うんだよ。あのあの、なんだあれが、
 ほら、長屋中元気に走り回ってるあの、」
「あ、ネズミか?」
「ネズミじゃねーよ。もっと大きいの。」
「ゾウか?」
「ゾウじゃねーよー。」


「どうした今日は。難しい顔をして。」辰夫が虎児に聞く。
「昔の自分見てるみてーだ。」

「ワンワン!って、吼えるやつあるだろう。」
「あー!犬だ。」
「そう。犬が俺んとこ上がりやがって、しゃがみこんで、
 馬糞しやがったんだよー。」
「犬が馬糞するわけねーじゃないか。
 お前はおかしなヤツだねー。ほんとに。」
「あのそれでよ、もう俺も頭きたからさ、
 そいつが赤い犬だったからね、
 アカー!出てけーって、言ったんじゃねーか。
 それを聞き間違えたんじゃないかと思うよ?オメエはよ。」

会場、爆笑。
「しょうがないねー。」辰夫、半蔵、淡島、よしこが声を揃える。
「笑うんじゃねーよ!」と虎児。

最初の頃の虎児は、話すのが下手で、面白い話を説明しようとも
あれがあれで、で、全然面白くなりませんでした。
特に、SPの時。
デス・キヨシに会った話を必死に説明しようとする虎児を
思い出しました。
「あれ、あれ」と、説明になってなかったっけな~。
そんな虎児。『過去の自分』と振り返るあたり、成長しましたね~!


長屋に、片方は不精でそそっかしく、片方はマメでそそっかしい。
この二人が隣り合わせに住んでいまして、
で、マメな方が、観音さまに参拝に行きますと・・・


マメな男(岡田准一)が人だかりによっていく。
尋ねてみると、行き倒れがいるらしい。
「そりゃぁ、見たいですねー。」
「だろ?私も見たいと思うんだが、この人だ。
 股ぐらでも潜らなきゃ、見られねーな。」
男の言葉に、マメな男は人の股ぐらをくぐりぬけ先頭に。
「ほらほらほらほら。さっきからいた人はどいたどいた。
 お!あんた、今来たんだね。」
行き倒れに付き添う男()がマメな男の手を取る。
「おぉ!ありがとうござんす。」

「あの、これから始まるんですか?」
「いや。始まったりはしないんですよ。行き倒れですから。」
「あー。行き倒れですか。へー。
 で、どんなことやるんですか?」
「やー。変な人が来ちゃったね。弱ったねー。
 えー、この、こもが、そうなんですけどね。」
「へー。ちょっとあんた、起きたらどうなんだい。
 みんな見てるんだから。」
「起きたりはしないんですよ。
 その人はもう死んじゃってるんですからね。」
「じゃー、死に倒れじゃないですか。
 行き倒れって言うから・・・。」
「あなたとはね、あんまり長い時間をかけて話していたくは
 ないんだがね。
 まあよかったら、知っている人かどうだか、
 顔を見てみたらどうですか?」
「そうですか?じゃ、まぁ、知ってる人の訳がないんだが、
 ちょっと、失礼して。
 あー知ってる、こいつ。」


「驚いたー!熊の野郎だ。」
行き倒れの男(長瀬智也)を見たマメな男が叫ぶ。
「お前さん、知ってるのかい?」
「知ってるも何も、こいつとは隣同士だよ。
 仲いいんだよ。兄弟同然に付き合ってきたんだ。
 生まれた時は別々だが、死ぬ時は別々って言ってたんだよ。」
「当たり前じゃない。」
「おう。当たり前の仲よ。
 ったく、誰がこんなことを!お前か!」
「冗談じゃないよ。私はいろいろ心配して。身元がわからないから。」
「熊ですよ。こいつは熊です。間違いねー。」
「じゃああんた、悪いがね、この人ん所に行って女房を、」
「かかぁはいねー。独りもんだから。」
「じゃ、ご両親か親戚。」
「いねぇ。身寄り頼りのねー可哀想な一人ぼっちでね、
 可哀想なヤツなんです。」
「困ったねー。」
「じゃあ、こうしましょう。
 とりあえずここに当人を連れてきましょう。」

「当人?」観客席から虎児が叫ぶ。
「何だよその当人って?」
「ですからあの、行き倒れの当人を。」

「あーっ!?」虎児がまた叫ぶ。
「ちょっと静かにしてよ。」と淡島。
「いやだって当人って。当人死んでんじゃねーか。」
「そこが面白いんだ。黙って聞け。」と辰夫。

「今朝、気分が悪いからよしとくよーなんて言ってましたからね。」
「今朝?だったら違う。人違いだ。
 この人はね、夕べから倒れてんですよ。」
「だから当人を連れてこなけりゃわからねーって。
 こいつね、自分で自分のことがはっきりしねー男なんですよ。
 だからね、おそらく、ここでこんな風になってるの、
 当人もまだ気がついてねーんじゃねーかなーって。」


「おいおいおい。
 師匠、頭がおかしくなっちまったんじゃねーのか。」と虎児。

「ですからね、ちょっと本人を連れてきますんでね。
 そいで当人が来て、二人見比べてみればね、
 あーやっぱり当人なんだってことになりゃま、安心ですから。」

「おい熊ー!起きろ熊ー!!熊公ー!!」
マメな男が熊の部屋の向かいの戸を叩く。
「バカだねー。でっか声で熊公、熊公って。
 あぁ!熊公は俺だ。
 なんだい?なんだい?」
マメな男が戸を開く。
「そんなところに座ってタバコなんかふかしてられるも身じゃねーぞ。
 びっくりして驚くな!」

谷中家。
「だからあそこ行ったんだよ。どさくさ、じゃなくて浅草。」
虎児にレッスンをつけるどん兵衛。
どん兵衛の肩になぜか寄り添う、ちょっとふてくされた小百合。
ヤスオから引き離そうと、どん兵衛が小百合の手を離さない。
「ちょっと待ってくれよ。やっぱりわかんねーよ。
 家に熊がいたら話がおかしいじゃねーか。死んでんだからよ。」と虎児。
「そのおかしいが、面白い、ってことなんだよ。」と竜二。
「何が?」
「そそっかしいから自分が死んだことも気づかずに、
 家でタバコを吸ってる。そうだよな?」竜二がどん兵衛ににふる。
「何がそうだよな、だよ。
 俺はお前のマブダチでも何でもねーぞ。師匠だぞ。」とどん兵衛。
「いいからさ。」
「よかねーから言ってるんだろ。
 第一稽古してる者が浴衣も着ねーで何だよ、お前。」
「何もしてねーんだよ。見学だ、見学!」
「だったら見学料払えよ、このやろー!」
「師匠!私はあっちの見学者の方がはるかに問題だと思います!」
どん太が口を挟む。
隣の部屋では、鶴子に膝枕され耳掃除してもらうヤスオがいた。
「へっへっへ。何だよ。何だよ気にしないで続けろよ。」
「クッソー!裁判したら絶対俺が勝つのによぉ!」とどん太。
「・・・続けていいか?
 でその八公がな、熊公に一部始終、事の次第を話すんだよ。」
どん兵衛が続ける。

「おいおい待ってくれー。行き倒れ?俺が?気味の悪いこと言うなー。
 俺は死んだ心持ちはしねーぞ。」
「それがお前、ずーずーしーって言うんだよ。
 夕べお前、どこへ行った?」
「なかー冷やかして、帰りに夜明かしが出たんでね。5合も飲んだなー。
 いい心持ちで観音様の脇を抜けたところまでは覚えてるんだが。
 その先が。」
「そーれ見やがれ。お前、悪い酒に当たっちまったんだ。
 観音様の脇でひっくり返って冷たくなって、
 死んだことにも気づかないで帰ってきたんだよ。」
「・・・そうか。」
「そうだよ。」
「そう言われてみれば今朝から心持ちがよくねー。」
「そらみやがれ。さ、行くぜ。」
「どこに?」
「死骸を引き取りに。」
「誰の?」
「お前の。」
「ストーップ!!」

「・・・もういちいち止めないでくれっかなー。」
虎児に止められて師匠が嘆く。
「いよいよわかんねーよ。
 100歩譲って生きてんのは許す。
 引き取りに行くのが納得いかねーよ。
 引き取りに行くのが熊だったら、引き取られるのは誰なんだよ。」
「それがまさに、サゲなんだよね。」と竜二。
「何が?」と虎児。
「いや。抱かれてるのはまさしく俺だが、
 抱いているのは一体・・・誰なんだ。」どん兵衛がサゲを話す。
「それがわかんねーんじゃねーか。
 オチがねーじゃねーかよ!」虎児が声を荒げる。
「でっかい声出すなって!」
「あり得ねーじゃないかよっ!」
「だからそのあり得ないのがオチなんだよ。
 会話と最小限の動きだけで全てを表現する落語だから成立する世界。
 何でわかんないかなー。」と竜二。
「小辰。お前今、いいこと言ったなー。
 まさしくその通りなんだよ。
 あり得ねー話に客を引き込むのが噺家の腕なんだな。
 それを面白いと思うか、わからねーと突き放すか、
 それは客の懐しだいなんだな。」
「わかんねーもんはわかんねーんだよ!
 なんだおめーらさっきから、実の親子でよろしくやりやがってよー。」
「よろしくやってねーよ。」と竜二。
「今まで教わった噺はよ、多少でたらめでも最後は納得出来たけどよ、
 でも今回はわかんねーよ。」
「何が気に入らねーんだよ。」とどん兵衛。
「あんたが気持ちわりーこと言うからだよ。」と竜二。

「ごめん下さいー。竜ちゃん、いますかー!?」
メグミの声に、鶴子を突き飛ばし、ヤスオがいち早く玄関へ向かう。
「田辺さーん。うっそー。何でここにいるのー!?」驚くメグミ。
「お前に会いに来たんだよー。」
「お願い。何も言わずに今日は帰って。」
そう言う鶴子を突き飛ばすヤスオ。
「相変わらずかわいいねー。」
「魔法が・・・魔法がとけちゃう・・・。」鶴子、号泣。
メグミは、竜二の家の前にヤクザの車が止まっていたと教える。

哲也と泰次は竜二の部屋に乗り込み、劉さんとチビT(桐谷健太)から
虎児や竜二のことを聞きだす。

虎児が一人、半蔵の屋台で落語の勉強をしていると、
ヤスオがやってくる。
「いいこと思いついたんだけどよ。
 さっきの漫談・・・」
「落語!粗忽長屋。」
「そうそうそう。それ聞いてビビっと来たんだけどさ。
 お前・・・俺のこと、殺せ。」
「はぁ!?」
「マジ殺すんじゃねーよ。フリだよ、フリ。
 それで力夫のこと騙して、500万をふんだくって
 山分けするんだよ。
 俺その金で東京からおさらばして、沖縄か北海道だ。」
「俺、どうすんだよ。」
「ま、ムショでも入ってもらおうかな。」
ヤスオの言葉に掴みかかる虎児。
その勢いで、おでんの屋台が大きく揺れる。
「大丈夫。大丈夫って。
 3、4年も入ってりゃすぐ出れるって。
 俺みたいな前科モン殺したって、そんなもんだよ。
 聞けよ、聞けよ。」
虎児がヤスオを放す。
「人がいっぱいいる所でよ、2、3発銃を鳴らして、
 俺を海にでも沈めたってことにすんだよ。な?
 ほんでお前が殺したって言ってムショに入ってればよ、
 死体が上がらなくたって力夫は信じるって。疑わねーからよ。」
「おぅ!粗忽長屋だ。」
「どうする?」
「あぁ。やる。」
「よーし!」
「そしたらー、俺は本当にお前を殺し、500万貰うわ。
 テメーが死んでも誰も悲しまねーからよ。
 自慢じゃねーけどよ!俺にはもう悲しむヤツがいるんだよ。
 俺のことを家族だと思ってくれてるやつが何人かいるんだよ。」
「ぬるってー事言ってんじゃねーぞ!」
ヤスオがイスで屋台の看板部分を叩き割る。
「あー!!壊した!!弁償!弁償!」半蔵が叫ぶ。
「よく考えろ。俺やオメーの代わりはいくらでもいるんだよ。」
「オメーはそうかもしんねーけど俺はもう違うんだよ。
 俺の変わりはもういねーんだよ。」
ヤスオが虎児をじっと見つめ、そして歩き出す。
「どこ行くんだよ?」
「関係ねーだろ。誰がテメーの世話になんかなるか。」
ツバを吐き捨て、ヤスオがどこかへと消えていく。

その頃、ウルフ商会の力夫、哲也、泰次が、ヤスオの跡を追って、
新宿流星会に乗り込んでいた。
「田辺に関してはうちも被害者だ。」と組長が言う。
「その田辺が、お宅の山崎と繋がってる。」
「根拠は?」と日向(宅間孝行)が聞く。
泰次は、背が高い二枚目と一緒にメシ食ってるのを見た、と言う。
「仮にその二枚目が山崎として、あいつはもうウチの人間じゃない。
 とっくに足洗ったんだよ!
 どこで何してるかこっちが知りたいくれーなんだよっ!」
銀次郎(塚本高史)が凄む。
「あー。びくりしたー。
 銀坊ちゃん。大きくなったなー。
 今の写真撮っておけばよかったなぁ。」と力夫。
「ケンカ売りに来たんじゃありません。
 田辺の身柄さえ渡してくれたら。
 坊ちゃんにいい背広でも買うたろう思って、
 こないなぺらっぺらな服着てたら2代目泣きますさかいなー。」
「いい加減にしろよ、力夫。」日向が睨む。
「おやじ。それじゃ。
 行くぜ哲也。」
「ハイ。かしこまりー。
 行くぞ、この幽霊も。」
哲也が泰次をど突きながら事務所を出ていった。

ドラゴン・ソーダの前に車を乗りつける虎児。
店には『Closed』の表札が掛けられている。
「入って。現場そのままに残してあるから。」
リサ(蒼井優)がドアを開け虎児を店に入れる。

その様子を、泰次が見ていた。

店内はめちゃめちゃに荒らされていた。
「この間の二人組か?」
「他に誰がこんなことやるんだ。」

リサが一人で店番している時、哲也、泰次と他に男が二人、
ドラゴン・ソーダに嫌がらせにやってきたのだ。
暴力に否定的な泰次はリサの悲鳴に思わず謝る。
「すいませんじゃねーだろ!かしこまりー、だろ?」
哲也が泰次の胸倉を掴んでそう言った。

「昔の仲間を庇う気持ちはわかるけどさ、
 俺ら、関係ねーし。巻き込まないでくれないかな。」
「・・・悪い。」
「家まで知られてるしさ。
 いい加減田辺ってヤロウ向こうに渡せば?」
「それが・・・いなくなった。
 まさか、お前らにまで手を出すとはな。」
虎児が服を拾おうとする。
「触んなよ!!」
竜二の剣幕に虎児の手が止まる。
「あんた自分でどう思ってるかしんねーけどさ、
 やっぱヤクザなんだよ。 
 わかったろ?」
竜二の言葉は虎児の心に深く刺さったでしょうね。
竜二の気持ちはわかりますが、虎二の表情が寂しそうで
切なくなりました。


虎児はその足で、流星会に行く。
「責任を持って自分が探します。」という虎児に
「見つけたらどうするつもりだ?」と組長。
「殺されるかもしれねーっすけど、ウルフ商会に差出します。」
「そんなことしたら、お前もエンコ詰めてもらうぞ、山崎。」

以前、ヤスオと一緒に流星会の金を持ち出した男がガス自殺した。
その親戚から、お礼の手紙が組に届いたのだ。
田辺は、そのとき生き残った子供に送金していたのだ。
「だからといって組の金を使い込んでいいっていう話じゃないが
 とりあえず、人間の心が残ってるみたいだな。1ミリくらい。
 そうでなかったら、タイガーマスクみたいなマネせんだろう。 
 今だったら間に合うぞ、虎。
 完全に踏み外す前に何とかしてやれ。」
組長の言葉に、虎児はヤスオを探し回る。

谷中家。
着物と扇子と腕時計を差し出し、虎児が正座をして師匠に頭を
下げる。
「事情は、だいたいわかいりました。
 お前さんの意思も固いようだし、私も、去るものは追わない主義。
 自分の息子が出て行った時もそうでしたから。
 だけどね、お前さんの場合は違うよ。
 お前さんが、いくら辞めたいっていってもそうはいかないよ。
 私はどこまでも追いかけていくよ。」
「なんで?入門する時、餅は餅屋って言ったじゃねーかよ。
 立派なヤクザになりなさいって言ったじゃねーかよ。」
「理由は一つだよ。」
「借金か?」
「小百合ちゃんが泣いてるんだよ。」
ハンカチを目に当て、声を上げて泣く小百合。
隣に座る鶴子も泣き出す。
「今日は鶴子も泣いてるよ。ツープラトンだよ!」とどん太。

車を運転する虎児。
「どうしても行きたいっていうんなら、行っといで。
 ただし、ヤクザとしてではなく、噺家として、何とかしておいで。」
師匠の言葉を思い出しながら、
「けどどうすりゃいいんだよ。」と呟く。
その時、虎児の携帯が鳴る。
「どうしよう、虎ちゃん。今、田辺さんと一緒なの。
 電話がかかってきて、お金貸してくれって。」
メグミからだ。
「そこどこだよ、そこ!
 お台場?お台場のどこだよ?
 観覧車ならどっからでも見えんだろうがよ。
 なんとか橋?なんとか橋じゃわかんねーよ。
 ヤスオは?」
「今トイレに言ってる。あー、帰ってきた!」
「メグミ!話つないでおけ。俺が行くまで絶対に帰すんじゃねーぞ。」
「そんなの無理だよ。メグミ、噺家さんじゃないもーん。」
「バカおまえ。いろいろあるだろうがよ。家族構成とか出身地、!!」
虎児が車の中に取り付けられた不審な赤いランプに気づく。
盗聴器だ!
虎児は慌てて携帯を切る。

黒塗りのベンツ。
「お台場の、なんとか橋です。」泰次が哲也に報告する。
「なんとか橋じゃわかんねーだろ!使えねーなー!
 早く車出せよ、ほらっ!」
哲也に罵倒されながら、泰次が車を出す。

盗聴器、虎児がドラゴン・ソーダに入ったあと、
泰次が取り付けたんでしょうね。
気の優しそうな泰次、罵声浴びさせられてばかりで気の毒だ~。


お台場。
「悪いね。絶対、返すからよ。」
「田辺さん!出身、どこ?」
「三重。」
「三重かー。なんもイメージ出来ないな。」
「いっぱいあるよ。伊勢エビとか、牛肉とか。」
「お父さん、お母さんは?」
「普通にいる。農家やってる。」
「じゃ、帰りなよ。」
「はっ!?」
メグミがヤスオの胸に両手をあてながら説得する。
「帰ったほうがいいよ。ご両親もきっと心配してる。
 田辺さんは頑張った!さっきのお金で切符買って、帰ろう!」
「一緒に来るか?」
ヤスオが嬉しそうに言うが、メグミは首を横に振り、ヤスオ、ショック!
「母さんが~夜なべ~をして、手袋編んでくれた~♪」
ヤスオの肩に寄り添い、メグミが突然歌いだす。
「お前大丈夫か?お台場だぞ。」
「木枯らし吹いて、ラララララララ♪」
通りすがりのサラリーマンが涙する。

「チンタラ走ってんじゃねーよ! 
 おいタイジ!返事しろよー。」
「いや、黙ってろって言うから。」
「殺すぞ!」
「すいません。・・・かしこまり。」

お台場に到着した虎児が急いでメグミに電話する。
「今着いた!ヤスオは?」
「ごめーん。帰っちゃった。
 でも大丈夫!田辺さん、田舎帰るって。
 実家帰って農家継ぐって。」
「あ、虎ちゃん!」
メグミが手を振る背後で、ヤスオが拉致される!
虎児が急いで車の後を追う。

虎児は哲也と泰次の車が止められた場所を突き止める。
が、車の中は空っぽ。

「カンベンしてよ哲っちゃん。
 絶好のロケーションでさ、ヤクザみてーなことしなくてもさ。」
哲也は容赦なくヤスオを蹴り続け、ガソリン(?)をヤスオに巻く。
「冷てー。哲っちゃん、冷てーよ。」
「タイジー。」
哲也が泰次にピストルを渡す。
「冗談だろ。」とヤスオ。
「やれ、早く。」と哲也。
「たった500万で!M1グランプリだって、」
「やれって言ってんだろうよっ!早くしろ、タイジ!」
タイジが引き金を引く・・・。

バン!!バン!!
銃声が2度響き渡る。

高座に上がる虎児。
「え~。そそっかしい、そそっかしいなんて申しますが。」
「いよっ!鎖骨長屋だ!」辰夫が声をかける。
「粗忽長屋だよっ!
 あんたが一番そそっかしい。」

辰夫も会場も笑い出す。
「あ、タイガー、タイガー」と辰夫。
「じれっタイガー!
 なんでテメーが言うんだよっ!!」

会場、大爆笑!!

「今までは、ノンフィクション落語をお送りしてきましたが、
 今日の話はフィクションでございます。
 実在する人物、団体名などとは、一切関係、ございません。」

「それが普通なんだよ。」と辰夫。虎児に睨まれ、口、チャック!

「江戸と申しました時分、そそっかしいヤクザが二人おりまして。
 まぁこういうヤツに限って、自分で自分のことを抜け目ないと
 思っている。
 よしゃーいいのに、組の金子に手をつける。
 当然バレまして、親分さんに五百両の賞金をかけられまして、
 お尋ね者となったわけです。
 そしてもう一人、そそっかしいヤクザがおりまして。」


銃声の音を頼りに駆けつける虎児。
ヤスオは生きていた!
その足元に、哲也が倒れている。
「タイジじゃねーーーっ!
 俺の名前は、ヤスジだーーー!!」
「おいどういうことだ。」虎児に聞かれるが、ヤスオは言葉も出ない。
「毎日毎日、サンドバックみたいに殴りやがってよ。
 ムカツクんだよ。ムカツクんだよ!!」
玉の入ってない銃を打ち続ける泰次。
「やめろ。」虎児が泰次の体に触れる。
「放せ!何がかしこまりーだっ! 
 お前なんかにかしこまれねーよっ!」
銃を投げ捨てた泰次、今度は哲也を蹴り始める。
倉庫の2階で蹴った為、遺体が1階へと落ちる。
「ちくしょう!」泰次がその場に座り込む。

「舎弟の名前をうっかり間違えたせいで、殺されちゃったんです。」
「おいおい。やけにバイオレンスだな。」辰夫たちが顔をしかめる。

「こいつと約束したんですよ。兄さん捕まえたら500万山分けしようって。
 だけど、自分は何もしないで文句ばっかり言ってるし。
 何かっつーと殴るし。
 ほんっと、嫌なヤローで。」泰次が言う。
「だからって、お前。殺すことはねーだろ。」と虎児。
「すいません。でも、それだけじゃねーんすよ。 
 俺、知ってるんです。
 田辺さんが来る前、こいつが組の資金使い込んでたって。」
「それお前?」虎児がヤスオに聞く。
「まぁやっててもおかしくねーな。」
「しかもそれ、全部俺のせいにして。
 何もしてねーのにボコボコにされて。
 そもそも、田辺さんのことチクったのもこいつだし。
 ほんっと、尊敬出来ねーんすよ。
 舎弟としてアニキのこと尊敬出来なかったら・・・」
「やってらんねーじゃん、ねー。」ヤスオが続きを言い、
「わかったわかった。」と泰次に言う。
「テメー本当にわかってんのかよ!?
 本当はお前がこうなる筈だったんだ。」
「そうだよな。」
「こいつだってよ、家族とかいるだろうが。
 テメーと同じだよ。
 毎月金送ってるあのガキが泣くんだぞ。
 死んでも誰も悲しねーなんて、そんなヤツはいねーんだよ。」
虎児の言葉にヤスオは目をそらす。

「とりあえずお前、服脱げ。」虎児がヤスオに言う。
「なんでだよ?」
「おめーが死んだってことにすんだよ。」
「え?」
「おいタイジ・・・じゃねーか、ヤスジか。
 お前あいつの服脱がせろ。
 で組長にこう言うんだ。
 哲也のアニキが田辺をやりましたって。」
「じゃ、俺どうすんだよ?」
「地元帰って農業やんだろう?」

「という訳で、ヤスオと哲也が、来ている服を交換しまして、
 哲也を替え玉にして、一芝居打とうと考えたわけです。」


ヤスオが哲也の服に着替え、哲也にはヤスオの服が着せられる。
「おぅ。暗いところで見ればコイツに見えんだろう。」と虎児。
「血まみれじゃーん。」ヤスオが文句を言う。
「返り血だよ、返り血。」

「もしもし!ヤスジです。田辺をやりました。自分が!
 哲也さんですか?一緒です。はい。お台場。はい。」

電話を終えた泰次が、「近くまで着たら連絡くれるそうです。」
と虎児とヤスオに報告する。
「哲也が、田辺をやったんだろう?」ヤスオが言う。
「え!?僕なんて言いました?」
「自分がやったって言ったじゃん。」
「あ!すんません。」
「すんませんじゃねーよ、バーカ。」とヤスオ。
泰次が顔を上げると、
「あ、ごめん。
 なんだかわかんなくなってきた!」
「だから、コイツ(哲也)がお前(ヤスオ)をやったんだよ。
 で、お前はいま哲也なんだよ。」
「・・・なんで血まみれなんだよっ。」
「あ~。絶対突っ込まれますね。」と泰次。
「何なんだよ。一緒にいるとか言っちゃうしよー。」とヤスオ。
「自分、何か着るもん買ってきましょうか?」泰次が言う。
「どこもやってねーよ。
 大体なんでオメーが行くんだよ。」とヤスオ。
「服ってさ、ダサくてもいいかな?」虎児がヤスオに聞く。

「お台場なんか行ってらんねーよ。店まだ片付いてねーしよ。
 つーかほんと、関わりたくねーんだよ。」
虎児からの電話にそう答える竜司。
「これが最後だ。頼むよ。
 俺一人じゃダメなんだよ。お前が来ないとさ~。」
「俺が行かないと?」
「話にオチがつかないんだよ。」
「・・・しょうがね~な~。
 竜ちゃん、行っちゃいますよ。」竜司が笑顔で答える。
「おぉ!悪いな。あのな。
 変なアップリケのついてないやつだぞぉ!?」
携帯を奪い、ヤスオが言う。
「アップリケじゃねーよ!ワッペンだ!!」
すぐ戻るから、とリサに言い、竜司が紙袋を手に出かけていく。
アップリケ、で噴出しました!
北村さんの言い方が又可愛かった!


「お馴染み、反物屋の竜に服を持って来させたんですが、
 運悪く、親分さんが先に来ちまいまして・・・。」


「こんばんは。これでやったのかい?」
力夫の言葉に頷く泰次。
虎児は少し離れた場所に隠れている。
「仏どこや?」
「後ろです。」
泰次が車のトランクを開ける。
ヤスシの服を着た哲司が横たわる。顔には何かが被せられている。
「取れや。」
「いや、ちょっとやりすぎて顔変わっちゃったんで。」
「ええからはよ、取れ!」
力夫に言われ、泰次がゆっくりと布へと手を伸ばす。
そのとき!
「遅くなりましたー!」
紙袋を抱えて竜司が走ってきた。
「ぶっほ!」と虎児。
「田辺さんに合うかわかんないけど新作持ってきたんで
 着てもらっていいっす、!!」
「なんだワレ!?田辺の知り合いか!?」
竜司、慌てて引き返そうとする。
そこへ虎児が駆けつける。
「すいません。自分の連れです。
 流星会の山崎です。はじめまして。」
虎児が頭を下げる。
「説明しろ!」と力夫に言われ泰次が答えに困る。
「泰次が田辺をやりました。
 自分が見てたんで間違いありません。」と虎児。
田辺が死んだと知り、竜司の顔が恐怖に引きつる。
「哲也は?」と組長。
「中です。なんか気分悪いみたいで。」
力夫が車の窓を叩く。
「哲!ほら開け!哲!」
ヤスオが窓を少し開ける。
「お前、後始末きちんとやっとけよ。
 そん位、出来るな?」
「かしこまり!」
「頼むで。」と力夫。

「あの、自分は?」泰次が聞く。
「自首するなり何するなり、好きにしなはれ。」
力夫はそう言い、500万円を泰次に渡す。
「帰ってきたらワカアタマにしてやるわ。」
力夫が泰次の頭を撫でながら言う。
若頭を読めない人がここにいたんだ!(笑)

「オヤジに、どうぞよろしゅう。」
力夫が虎児に挨拶し、「ごきげんさーん!」と言いながら車に乗り込む。

「さて。残ったのは田辺の死骸。
 見つかっちまったら、田辺が田辺じゃねーってことが
 ばれちまうんでね。
 山深いところに担いでいきました。
 誰が?
 当の田辺が。」


遺体を乗せた車が、山奥へと向かう。
「事情説明してくださいよ。 
 田辺さん、マジで死んだのかと思いましたよ。」と竜司。
「いや。田辺ヤスオは死んだよ。」
竜司が持ってきた服を着た田辺が言う。

「迷惑かけたな、こいつにも。
 お前らにもな。」
車を止め、トランクを開けたヤスオが言う。
「手伝うよ。」虎児が手を貸そうとすると
「触んな!!
 手伝ったらお前・・・
 お前も死体遺棄で捕まっちゃうんだぞ。
 お前、もうヤクザじゃねーんだぞ。
 噺家が捕まったら、まずいだろ。」
ヤスオの言葉に虎児、鼻がヒクヒク。
涙がこぼれそうだったのかな?


ヤスオは一人で遺体を担ぎ、山奥へと消えていく。
「聞いたかよ。ヤクザじゃねーってよ。」
ヤスオの背中を見送りながら、虎児が竜司に言う。
「うん。ヤクザが言うんだから間違いないっすよ。」
「あ!一つ聞いていいか?」
ヤスオが振り返って二人に聞く。
「なんだよ!?」と虎児。
「この担がれてる死体が俺だったら、」

「担いでる俺は~、一体誰だい?」
高座の虎児が客席に頭を下げる。
「よッ!今日もよかったぜ!怖かったけど!」辰夫が声をかける。
観客席から竜司がメグミと、笑顔で拍手を送っていた。

寄席から出てきた泰次は、交番へと歩き出す。

喫茶よしこ。
「いやぁ、正直言ってな。
 粗忽長屋だけは無理だろうと思ってたよ。
 あり得ない話だから。」
「最初からそう言ってたんだよ。」
「そんだけお前さんたちの商売は大変だってことなんだよ。
 だからな、一日も早く、堅気になるんだよ。足洗うんだよ。
 はい!」
「何だよ?」
「月謝。」
「あぁ。じゃーこれ。」
虎児が授業料をどん兵衛に渡す。
それを受け取りズボンのポケットにしまうどん兵衛。
「よく帰ってきたな。小虎。」
どん兵衛が虎児の腕時計を手にそう言う。
「師匠・・・。
 早く返してくれよ。」
どん兵衛が感慨深げに腕時計を虎児に渡す。
「金だよ!コノヤロー!!」
「あー!あ!落ち着け!!」
「沈めるぞ!!」
「静まれ。静まれ。心を静めよう。
 ごめんね。ごめんね。
 今これしまっちゃったから?しまっちゃったからだよな。
 ごめんな。ごめんな。
 はい、じゃ、今月の返済金です。ありがとうございました。
 あの、山崎君。これまでにいろいろやってるでしょ? 
 あとどれ位返したらね、堅気になれるかあんた知ってる?
 これまで返済した分を合わせると、丁度170万なんだよ。
 だから残りは230万。」
「まだ170万かよ!?」
「いや、もう170万だよ。」
「まだだよ!まだ半分もいってねーじゃねーか。」
「もうだよ。だからもっと早く覚えようよ、テンポよく覚えようよ。」
「もう170万かよ!」今度は虎児が言う。
「いやまだ170万、あれ!?」どん兵衛も混乱する。

『まだ』と『もう』の違い。

谷中家に、田辺から野菜が届く。
小百合と鶴子はなぜか号泣。
箱の中に、『結婚しました』とハートいっぱいで飾られた
写真が同封されていたのだ。

その写真を見つめる力夫。
「アホちゃうかー。」
ヤスオの顔の部分にハマキを押し当てる。
テーブルの上には、谷中家と同じ野菜の箱が置かれている。
「おのれ、ワシに報告したらあかんやろ~。 
 そそっかしいヤツや。」
力夫が写真を破りながらそう呟いた。


粗忽長屋の登場人物はまめでそそっかしい男と、不精でそそっかしい男。
哲也の下で、ずっと耐えてきた泰次の怒りが爆発。
「舎弟としてアニキのこと尊敬出来なかったら。」
と言っていました。
虎児を庇う舎弟の銀次郎。成長しましたね!
きっと銀次郎は虎児を尊敬しているんだろうな。
この二人にも、来週何か動きがあるようです。

泰次のそそっかしさが、話をややこしくしてしまいました。
話が飲み込めないヤスオは、フィクションじゃないと納得できない
虎児のよう!
ヤスオと泰次のヤスヤスコンビ、なんだか可愛らしい!

どうやって幽霊を登場させるのかと思ったら、替え玉かぁ!
自分の死体を担ぐ田辺。
まさに、『粗忽長屋』現代版ストーリーでした。

スペシャルの時の話と、こう繋がるとは!
北村さんは大好きな俳優さん
本当にいろんな役柄を演じきっちゃいますよねー。

次週は、いよいよ『品川心中』。
竜司が演じるのかな?楽しみ!


参考にさせていただいたサイト
東西落語特選さま『粗忽長屋』