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タイガー&ドラゴン 最終話

塚本高史 2007. 11. 20. 23:56

タイガー&ドラゴン 最終話

『子は鎹』

いよいよ最終回。高座に上がるのは竜二(岡田准一)!

「ドラゴンドラゴン 無言電話!
 ・・・もしもーし。」

会場、し~ん。
「え~。この兄さん譲りの挨拶も、足掛け3年になります。
 覚えていらっしゃいますか?
 かつて、林家亭小虎という、伝説の噺家がいたことを。
 ヤクザと噺家。
 2足のわらじで、半年に渡り落語会引っ掻き回した挙句、
 あっさりお縄を頂戴した野郎です。
 お陰で師匠は責任を取って落語芸能協会を脱会し、
 我々林家亭一門は、犯罪者の家族という不名誉なレッテルを貼られ
 路頭に迷った。」


虎児の逮捕を伝えるニュース。
そして谷中家に押し寄せるマスコミ。

対応するのはどん太( 阿部サダヲ )。
「どん兵衛師匠にコメントを貰いたいんですけど!」と記者。
「コメットさんは、大場久美子!ハイ、ドンドンドーン!」
「師匠が出てきて正式な会見を開く予定は?」
「会見カイケンカイケン開高建!」

ギャグが通じる相手じゃない・・・と家の中に戻るどん太。
どん兵衛師匠(西田敏行)の前に弟子達が集まっていた。
「噺家として大成したいと願うんだったら、悪いことは言わない。
 よその師匠んとこに行きなよ。」
「寂しいこと言わないで下さいよ。
 これまで育てていただいたご恩を忘れて
 出て行こうなんてヤツは一人もいませんよ。」と
どん吉(春風亭昇太)。
「ムチムチメガネの言うとおりですよ、師匠。
 生活のことなら心配ありません。
 (グルメレポート)の司会でも、なんならAV男優だって
 何だってやりますよ。てかやりたいよ!」とどん太。
「寄席に出れないんだったら、自分達で公民館でも借りて
 やりゃ~いいんですよ。」とどんつく(星野源)。
「そうですよ!僕ら芸能協会に弟子入りしたんじゃない。
 師匠に弟子入りしたんですから。」とどんぶり(深水元基)。
「一生ついていきます!師匠!」とうどん(浅利陽介)。
師匠は両手で顔を覆い、「お前達は大バカ野郎だ。」と泣く。
「師匠ーーーっ!!」弟子達が師匠の胸に飛び込む。
そんな様子を、竜二は黙って見つめている。
「で、お前、お前はどうすんだよ。」師匠が聞く。

「とても断れる空気じゃねーっつーことで、
 お先真っ暗な林家亭に再入門して丸3年。
 お客様の温かいご声援を受け、こうして寄席に呼んでいただき、
 このたび真打、そして、7代目林家亭どん兵衛の名前を頂戴することに
 なりました。」


師匠から虎児に名前を譲ろうと思っている、と聞かされた時のことを
思い出す竜二。
「あいつのことを気にしてんのか?」師匠が竜二の顔を覗き込む。
「気にすんなって言う方が無理だよ。」
「そろそろ出所でしょ?迎えに行くの?」と高田亭馬場彦(高田文夫)。
「誰が迎えに行くかよー。
 ほんとにまぁ。
 どっか見所があると思って目~かけてやったのに、
 所詮ヤクザはヤクザだからねー。
 山崎のせいでさ、お前も、私も、受けたダメージを考えごらんよ。
 どん底の日々から実力で這い上がってきたんだからさ、
 気兼ねすることなないよ。遠慮なく、受けたらどうなんだ。」
師匠の言葉に竜二は迷い考える。

「といういきさつで、師匠、あにさんを差し置いて、
 私が、オオトリの大役を務めさせていただきます。

 ・・・
 緊張しますね。
 
 タイガー&、ドラゴン!」


聞き取れない言葉は()に入れて書いてあります。
訂正など下さると嬉しいです。
いきなり3年後のスタートですね。
高座での竜二の話から、その後のいきさつが十分伝わってきます。
師匠・どん兵衛の虎児への思いが悲しい・・・。
その虎児は・・・!?


篠ヶ崎刑務所を出所する虎児。
3年ぶりにシャバの空気を深呼吸する。
「お勤めご苦労様です!」
虎児が声に振り返ると、チビT(桐谷健太)が黄色いハンカチを
振っている。
「お前かよ。」
「はい、自分っす。これ幸せの黄色いハンカチ!」
先にどんどん歩き出す虎児をチビTが追う。
チビT、Tシャツが一段と短い!おへそ出てます!
「お前だけかよ。」虎児が聞く。
「はい、自分だけっす。」
「お前・・・俺にあんまり思い入れないだろ。」
「あぁ。まぁ、割と薄いほうですけど、暇だったんで。」
「ハガキ届いてねーのかなぁ・・・。」虎児が呟く。

『前略皆様 ご無沙汰しております。
 お元気でお過ごしですか。
 さて、私晴れて三年の実刑を・・・
 6月24日に出所いたします。
 (花のスタンプ)
 山崎虎児』

ドラゴン・ソーダに届いた虎児のハガキ。
店内は客で大混乱。リサ(蒼井優)が応対に追われていた。
なんと、ウラハラTシャツは在庫切れになるほど店は大繁盛していた。

チビTに知らされ、店の外で待つ虎児にリサが駆け寄る。
「うわぁ!びっくりした~!
 今日だっけ?」
「おぉ。スゲー儲かってんじゃん。」
「そうなの。芸能人とかJリーガーとかが冗談で着てたら
 ホントに流行っちゃったの。」
「時代がドラゴンソーダに追いついたんですよ。」とチビT。
店名は、CYBER DRAGON SODA と変わっていた。
「じゃあ、竜二の借金は?」
「とっくに返して、代官山と下北に、支店出したんだよな。」
「そっか。・・・よかったじゃん。
 銀次郎は?」
リサが気絶しそうになる。
「ヤベーよ、それ禁句!」とチビT。
リサが店内に戻る。
「最近別れたんですよ。新宿に行けばわかります。」
チビTがそう言った。

新宿。
電柱の影から『流星会』を見つめる虎児。
そこへ一台の車が戻ってきた。銀次郎(塚本高史)の車だ。
ヤスオ(北村一輝)が助手席から降り、後部座席のドアを開ける。
「結局、こっち戻ってきたみたいっすね。」とチビT。
銀次郎が車から降りる。
「おい銀次、」
虎児の声は、大勢の男たちが銀次郎を出迎える声でかき消される。
男達が整列し、銀次郎に頭を下げる。
「3年前の事件のあと、正式に2代目継いだんですよ。」
チビTがそう言った。

「しかも、かための杯っていうの?
 ウルフ商会の組長がギンギンの舎弟になるって。
 組長はギンギンに組任して八王子に引っ込んだって。
 昔はカワイイとこあったんだけど、
 今はどっぷりヤクザでしょ~。
 住む世界が違うっていうか。
 実際ギンギン六本木ヒルズに住んでいるし。」
チビTの部屋で、リサがそう説明する。
「そうか・・・。
 ま、でも、立派に2代目継いでくれただけで・・・
 俺は嬉しい。・・・うん。よかった・・・。」と虎児。
「なんか、虎ちゃん寂しそうだよ。」と劉さん。
「寂しくなんかねーよ。もともと一人なんだからよ。」
腕組みをした虎児が俯き加減に言う。
「まぁ、お祝いなんだから飲もうよ!
 あ、そうだ。店長呼ばない?」
「来れねーよ。稽古で忙しいし。
 あっちは明日挨拶に行けばいいじゃん。」とチビT。
「いや・・・。
 合わす顔がねーよ。
 林家亭の看板に泥塗っちまったんだからよ。」
「とりあえず飲もう!
 今日はここ泊まって。」
「チビT!そんなこと聞いてないよ!」
劉さんとチビT、頬を叩き合う。

谷中家。
虎児のハガキにアンパンマンの絵を描くどん太と鶴子(猫背椿)の
娘、サヤ。
その横で、雑誌をチェックするどん太。
どん太の隣には、父とペアルック(黄色いTシャツにオーバーロール)
姿の長男・太郎がミニカーで遊ぶ。
『'08 女性が選ぶ抱かれたい男・抱かれたくない男ランキング』で
自分が抱かれたくない男ランキング第2位。
第1位のジャンプ亭ジャンプに、約300票差で負けたことが
ショックだったのだ。
テレビでは自分よりもジャンプの方が5秒も長く映っている。
「ねーねー、赤ちゃんってどうやって生れるの?」という娘の質問に
「セックスだよ、セックス!」と答え、鶴子に頭を叩かれる。

浴衣姿の竜二が稽古をする。
「この子の為を思って水に流して、ヨリを戻してもらう訳には
 いかねーか?」
「嬉しいじゃないかい。え?
 私はともかく、そうしてもらえばこの子の行く先が
 どんなに幸せかわからない。
 3年ぶりにお前さんに会えたのも、この子があればこそ。
 子供は夫婦、」

そこへ孫のサヤがやって来る。
「見て見て、おじいちゃん。アンパンマン!」
「ほほぅ。上手だねー。」

「いやぁ、あたいが鎹だって?
 どうりで昨日、かなづちで頭をぶつと言った。」
竜二がお辞儀する。

「小百合ちゃん、これ。」
どん兵衛が怖い顔で、孫が絵を描いたハガキを持ってくる。
「隠してたのに。」と小百合。
「なんで隠すの?」
「だって、あの、小虎の話、」
「小虎じゃないでしょ、山崎でしょ。」
「・・・山崎さんの話すると、どんちゃん怒るじゃないの。」
「怒ってないじゃないの。冗談じゃないよ。」
「ほら、怒ってるじゃないの。」
「なんで!怒ってないって言ってんでしょう。
 冗談じゃないよ。今日、なんだい!24日に出所しますって。
 今日じゃないか。
 あんなに迷惑かけてんだからさ、
 うちに挨拶に来るってーのが筋ってもんじゃねーか。
 あんなヤロウね、来たら来たで追い返してやるけどさ、
 なんだよっ!
 はなっから来ねーってーのはどういう了見なんだよっ!」
様子を見に来たどん太。どん太に抱かれた太郎が泣き出す。
「師匠!もう、太郎泣かせて。」
「私が泣かせたんじゃないよ。山崎が泣かせたんだよ。
 太郎だってね、ヤクザもんは大ッ嫌いなんだよ。」
父の様子を竜二が悲しげに見つめていた。

浅草・雷門前。
「ほ~ら不思議!
 子供大好き究極のペット!
 あっち~こっち~、じゃれっこ(ボール)だ~!」
「何やってんだ、半ちゃん。」
「小虎!」
おもちゃを売っていたのは、半蔵(半海一晃)だった。
「お前が来ねーから店たたんじまったよ。」
半蔵は虎児の出所を心から喜ぶ。
「師匠は、元気にしてるのか?」
「・・・あぁ。」
「俺のこと、何か言ってなかったかな・・・。」
「あ?別に。」

「前方に見えますのが、
 虎ちゃん!!」
「メグミ・・・。」
「ふぇ~ん。」メグミはその場に座り込み、泣き出してしまう。

そば辰。
「悪いな。差し入れ持って面会行こうと思ったんだけど、
 いろいろあってよ。」
「辰ちゃん、再婚したんだ。」
「ブラジル人。浅草サンバカーニバルでペア組んだ縁で、付き合ってよ。
 おいアニータ!こっち来て挨拶しろよ。」
「ソバオワッタライクヨ!」
「蕎麦アレルギーなんだよ。
 その代わり、夜のほうはお前!チシシシシシシ。」辰夫が笑う。

「お前まだ竜二と続いてんのか?」虎児がメグミに聞く。
「うん。3回別れて3回ヨリをもどしたけど。
 1回目が私の浮気で、2回目が竜ちゃんに黙って合コンに行った時。
 次が、去年のクリスマスにホストクラブに行った時で、
 あ、この前はほら辰ちゃんと!」
アニータが怖い顔で睨みつける。
「4回じゃん!しかも全部お前の浮気!」
「竜ちゃんのキレるポイントが読めないの。
 ほんっとめんどくさい!」
「あいつも襲名前で、ピリピリしてるんだろ。」と辰夫。
「襲名・・・!?」
「7月に、どん兵衛になりまーす。」と半蔵。
チビTが止めようとしたが、間に合わなかった。
「テメェ何で黙ってんだよ。」虎児がチビTに言う。
「いや・・・竜ちゃんからいろいろ聞いてたし、微妙だなって・・・。」
「そっか。あんなことがなきゃなー。
 どんちゃんはお前に継がせるつもりだったもんな。」
「よかった。・・・これでよかったんだよ。
 昨日からよかったしか言ってねーじゃねーかよ。」と虎児。
「お前もよかったよな。出てこられて。」と辰夫。
「いや・・・。それはどうかな。
 竜二がどん兵衛ってことは、師匠は・・・
 どん兵衛二人になっちゃうじゃねーかよ。」
一同、顔を見合す。
「しょうがねぇな、オメエは。
 自分の目で確かめてこいよ。」辰夫がそう言う。

寄席に足を運ぶ虎児。
竜二のどん兵衛襲名のポスターがあちこちに貼られている。
客席の隅から、そっと高座を見つめる。
師匠が高座に上がる。
めくりには、『小虎』と書いてある!!

「どうだい?ぶったまげただろ?」辰夫が虎児に言う。

「林家亭どん兵衛改め、二代目、林家亭小虎でございます。 
 タイガー タイガー ありがタイガー!」


客席から笑いが起こる。

「なんで・・・。師匠、なんでだよ・・・。」
「さあな。
 口じゃ、二度とオメーが帰ってこれねーように襲名したって言ってるが、
 そんなバカな話ないと思うよ。」

「まぁ一旦は、夫婦別れをしたご夫婦でもね、
 子の可愛さに惹かれてまた元のさやに戻るなんてことは
 よくあることなんですけれども、」


「『子別れ』だね。」辰夫が観客席に着く。
虎児は俯き、目をぎゅっと閉じる。

「私共はね、もうラブラブでございます。今で言う。
 別れるなんてことは考えたこともない。」


大工の熊五郎(長瀬智也)が近所に留守を頼み、
番頭(阿部サダヲ)に「お待たせしました。」と声をかける。
「一人身ってーのは大変だよ、棟梁。
 出ていくのにいちいち隣に留守頼まなきゃなんねーんだから。」
「まぁ頼んで出るぐらいのはいいんですが、
 マメにしてても洗濯物はすぐにたまる。
 女ヤモメには花が咲き、男ヤモメにはウジが湧くってね。」
自分の部屋を覗きながら、熊五郎がそう言う。
「ま、浮気の報いだからしょうがねーがな。
 それにしてもあの二度目の嫁さんってーのは
 よっぽど酷かったらしいな。」と番頭。
「惚れ込んでね、吉原から引き上げたんですが、
 まぁ安い馬買ったようなもんで。
 なんせ、朝寝して昼寝して夕寝する。
 つまるどころ一日中寝てる。」

二人が熊五郎の部屋を覗き込む。
熊五郎の二番目の妻(メグミ)が、部屋でごろんと横になっていた。
「今帰った。」
「熊さーん。お腹空いたよー。」妻が横になったまま言う。
「たまには起きて、メシでも炊けよー。」
「やだよー。私おまんま炊けないからおまはんと一緒になったんだよー。
 炊いとくれよー。」

「あったまきたからね、たたき出そうと思った矢先、
 向こうから出てってくれたんです。
 ま、これじゃいけねーってんでね、
 心入れ替えて、好きな酒も絶って、
 今こうして一生懸命稼いでるって次第で。」
熊五郎が番頭に言う。
「先のカミさんはどうした?
 器量は良くないが、仕事は出来たんだろ?」
「あ、あれですかい。
 ありゃー、貧乏なれがしてるとでもいいますか、
 所帯の繰り回しの上手い女でした。」
二人は熊五郎の部屋を覗き込む。
熊五郎の最初の妻(どん兵衛)が縫い物をしていた。

町中を歩きながら番頭が尋ねる。
「確か子供があったね。亀ちゃんっていったな?いくつだい?」
「へぇ。あれから3年経つんで、9つでございます。」
「そうかい。会いてーか?」
「そりゃあ、もう。」

「同じぐらいの年頃のやっこを見ると、
 あいつはうちのやっこじゃねーかなーなんて思ったりして。
 この間もね、菓子屋の前を通ったら、饅頭をふかしてるんですよ。
 で、蒸しカゴの蓋を取ると、湯気がぼーっと出て、
 上手そうないい匂いがするんですよ。
 あ、そういえば、うちの亀こう、饅頭が大好きだったなー、なんて
 思ったりして。
 思わず、饅頭見て、こいつを、あいつに食わしてやったら、
 どんな顔するんだろうなんて思ったら、
 涙が出てきちゃって。へへへ。」


師匠の噺を聞きながら目を閉じ涙をこぼす虎児。

「おいおい、おい!棟梁。」
「へい。」
「あれ、亀こうじゃねーか?
 かすりの着物着た、一番でかいヤツ。」
見ると、亀が馬になり、その上には子供が乗っている。
「あーーー!亀こうだー。
 あんなに大きくなりやがって。
 動いてらー。」
「そりゃ動くよ。人間だもの。
 ほれ。行って言葉をかけておあげ。
 わたしゃ、一足お先に行ってるからね。」
熊五郎が亀に近づいていく。
「おい、亀~。亀コウ!」
亀に馬乗りしていた子供達が逃げ出していく。
「おめー、お父っつぁんだな?」亀(ジャンプ)が言う。
「ああ!お父っつぁんに決まってらー。
 久しく見ねー間に、こんなに大きくなりやがって。
 こんちっきしょー!」熊五郎が頭を撫でる。
「お父っつあんも大きくなった!」
「大きくなるもんかい。
 黒くなって、じょーぶじょーぶしやがって。
 母ちゃんは達者かい?」
「ああ。」
「お父っつぁんは可愛がってくれるかい?」
「・・・お父っつぁんはおめーじゃねーか!」
「俺じゃねー。あとから出来たおとっつぁんがいるだろー?」
「子が先に出来て、親があとから出来るなんて、
 あたい聞いたことがないね!」
「じゃ、おっ母さんと二人っきりか?」
「うん!進めてくれる人はいるけど、
 亭主は先の飲んだ暮れヤクザで、こりごりしたって。」
「そりゃひでーこと言うなー。
 ・・・ヤクザ!?」
「酒がいけねーんだろー。
 おっ母さんいつも言ってら~。
 本当はお父っつぁんいい人だって。
 ほんとだよ!
 おっ母さん、だいぶお父っつぁんに未練があら~。」

涙をぬぐいながら、寄席から出る虎児。

「ハイドウ、ハイドウ!」
「ねぇジャンプ!芸能人ぶってんじゃねーぞ。」
子供に馬乗りされるジャンプ亭ジャンプ(荒川良々)が虎児に気づく。
「小!!虎さん!!小虎さん!!」
「おう。真打になったかい?」
「いや。・・・まだ。
 小辰に越されちゃって。
 今は、主に、グルメリポーターなどを。」
「俺の分まで頑張れ。」
「はい。」
虎児の背中を見つめるジャンプ。

「待ってー!待ってよ、お父っつぁん!
 お父っつぁん、一人で、寂しくないかい?」
「寂しいたって、寂しくたって、しょうがねーや。」
「あたいんちね、すぐそこなんだよ。行ってきなよ。」
「いやダメだ。ダメだ。おっ母には、会えないわけがあるんだ。
 な、お小遣いやろう。」
「いやぁ!こんなに!
 あたい、お釣りないよ。」
「全部やらぁ。無駄なもん買うんじゃねーぞ。」
亀、半べそに。そして泣き出す。
「おいおい!男の子がメソメソ泣くんじゃねーよ。」
「お父っつぁんだって泣いてんじゃねーか。」
「泣いてねーよ。
 目から汗が出るんだ。」

谷中家。
「はぁ~泣ける・・・って!!
 お前の落語聞きたいわけじゃねーよ。
 小虎さんがどこにいるか聞いてんだよ!」
「だから、寄席の前で会って、」ジャンプが説明する。
「師匠の落語聞きにきたんだ!」とどん吉。
どん兵衛は帽子を目深にかぶり黙っている。
「なんか、青山の知り合いの所に、世話になってるって。」

「チビTんとこだ。」竜二が出かけようとする。
「待ちなさいよ。
 今更会ってどうすんだよ。」どん兵衛が声をかける。
「師匠だってホントは未練あんだろう。
 でなきゃ弟子の名前なんて継がねーよ。」
「わかんねーやろうだな、本当に。
 俺はな、あのヤロウを破門にしたんだよ。
 二度とこの敷居をまたがないように、」
「それじゃ俺ん時と同じだろうが!!
 俺と一緒であの人にも帰る家はここしかねーんだよっ!
 くだらない意地張ってると後悔すんのアンタだぞっ!」

「竜二!!
 お父さんね、あの子を許せない事情があんのよっ!
 どうしてわかってあげないのよっ!
 あの子を許したりしたらね、協会を敵に回す。
 そしたら、お前の真打だって、おじゃんになんのよ!
 そりゃ、山崎さんはいい人だけど、どんちゃん、
 小虎師匠との約束を破ったんだもの。
 そんな小虎をどんちゃんが許したりしたら、
 あ、ううん、
 山崎さんを、小虎ちゃんが許したり、
 あ”--っ!!もうややこしいーーーっ!!!
 とにかくね、今一番苦しんでいるのはどんちゃんなのよ。
 ほらっ、泣いてんじゃない!!
 どんちゃん泣かす子はうちの子じゃないっ!
 どんちゃん泣かす子は、これでぶつよっ!」

小百合が思わずそばにあったものを振り上げる。
「ぎゃっ!何なの!?これっ!!」
小百合が手に持ったものを放る。
「何なのって・・・ナンですよ。」受け取ったジャンプが言う。
ジャンプの駄洒落にあきれ返る一同。

「私が持ってきたのよ。
 今日は私がインド風カレーを作っちゃいまーす。」
メグミがいきなり台所から登場し、笑顔で言う。
「昨日もカレーだったんだけど!」
「えっ!?」

流星会。
銀次郎が事務所に戻ると、そこで虎児が待っていた。
「山崎・・・」日向(宅間孝行)が呟く。
「坊ちゃん。二代目襲名、おめでとうございます。」
「・・・おぅ。ま、楽にして。」
「はい。」虎児が床に正座する。
「いつ、出てきた?」日向が聞く。
「昨日。」
「で、今日は?」と日向。
「下働きでいいから使ってくれって言いにきたんや。」
と力夫(橋本じゅん)。
「なに・・・!?」日向が言う。
「あのー、俺からもお願いしますよ、日向さん。
 こいつとは腐れ縁でね。」とヤスオ。
「ダメだ!」日向が立ち上がる。
ヤスオ、力夫、日向の眉間にしわが寄る。

「顔怖すぎ!普通にして。 
 ここの(眉間)筋肉緩めて。」銀次郎が口を開く。
「すいやせん!」
銀次郎が虎児の前でしゃがみこむ。

「アニキ。 
 すいません、ここはアニキで通させてください。
 アニキ前に俺に言いましたよね。
 手柄上げてーからって似合わないことするなって。」
「・・・ああ。すいません。」虎児が頭を下げる。
「あの時内心ちょっと思ったんすよ。
 自分のこと棚に上げて何言ってんだって。
 似合わねーことしてんのはどっちだって。
 だって全然センスないのに噺家とかやってるし。
 だから一緒に力夫ん所に行って、暴れてくれた時、
 すっげー嬉しかったし。
 すっげーカッコよかったし。

 で、3年経ったじゃないっすか。
 今すっげー似合わねーことやってるんすよ。
 30人近いヤクザ、ここ(眉間)に力入れて、
 二代目、二代目って。
 おぅ、なんて言って。
 似合わないっすよ。変わってほしいっすよ、マジで。
 だから・・・
 俺もアニキみたいに自分のこと棚に上げて言いますけど・・・
 
 似合わねーことしてんじゃねーよっ!!
 
 さぁ、行くぞ。」
銀次郎はそう言うと、立ち上がり部屋を出て行こうとする。
「おい銀次郎!」
虎児の声に振り返る銀次郎。二人が見詰め合う。
「すげー似合ってるぞ。」
銀次郎は虎児に向き直り、丁寧に一礼して、そして部屋を出ていった。

虎児はその足で、谷中家へと向かう。
家の前で遊ぶ子供達。
「さやちゃん、太郎。
 大きくなったなー。」
「おじちゃんだーれ?」

「嘘をおつき!
 知らない人が、こんな沢山のおあし、くれるはずがないじゃないか!」
母親(どん兵衛)が亀(竜二)に問いただす。
「本当だよーっ!」
「だったら誰から貰ったかお言いよ。」
「言えないよ。
 言っちゃいけねーって言ったんだもん、言えないよー!」
「なんて情けない了見なんだい・・・。
 おっ母さんはね、三度のものを一度しか食べなくたって
 お前さんに不自由させたことなんてないよ。
 取ったものだったら仕方がない。
 おっ母さんがお詫びしてお返ししてくるから、
 どこの家から持ってきたのかお言い!」
そっぽを向く亀。
「言わないんだね。
 いつまでもそうやって、強情はってろ!
 これご覧。
 これは、お父っつあんと別れるとき、お前が勝手に風呂敷に
 包んで持ってきた、お父っつぁんの金槌だよ。
 これでぶつのは、お父っつぁんがお仕置きするのと同じなんだよ。」

竜二の稽古風景。
「言わないとこの金槌で頭叩き割るから、もう。」
「盗んだんじゃねーや。貰ったんだい。
 盗んだんじゃねーやい。
 お父っつぁんに貰ったんだーい。」
かわいくねーな。」師匠が小声で呟く。
「お父っつぁんに貰ったのかい?」
「何だい!お父っつぁんって言ったら前に這い出してきやがったな。」
「ちょ、ちょっと待って、今、さっき、ヘンなこと言わなかった?」
竜二が稽古を止めて師匠に言う。
「言ってねーよ。」と師匠。

メグミがご飯の準備が出来たと知らせにくる。
「はい!ご飯!」師匠が食卓へと向かう。
「聞こえてんだよ!可愛くねーって言ったろ!?」
「うるせーな、お前。話に集中してねーからだよ、ほんとに。
 ・・・何これ!?」
食卓では、みんながナンに肉じゃがなどを乗せて食べている。 
「カレーまだ、出来てないの?」竜二が聞く。
「止めたよ。昨日も食べたんでしょ?
 おかずはいっぱいあるからさ、
 適当に乗せたりつけたりして食べて。」

ナンに味噌汁をつけて食べるどん太。
「いやー。もう、インド人と日本人のハーフになった気分。」
とグルメリポート。
「襲名披露公演には間に合いそうなのかい?」どん吉が聞く。
「あぁ。師匠がちゃんと教えてくれたらね。」
「何言ってんだよ。ちゃんと教えてんじゃんかよ。」

「まずっ!!」とメグミ。
「え?それ言っていいんだ。
 じゃ、私も、マズイ!」とどん太。
「私もまずい以外の言葉が思いつきません。」とどんつく。
「ご飯、ないですか?」とどんぶり。
「てか、カレー、残ってないですか?」とうどん。
「これはカレーないと食えないんじゃないかなと思うけどな。」
とどん兵衛。
「食えたもんじゃねーよな。」と竜二。

「ひどい!」メグミが竜二を睨む。
「えーっ!? 
 みんな言ったじゃん。
 順番に言っただけじゃん。」
「竜ちゃんに言われたくない!
 昔脱脂粉乳舐めて生きてたくせに!」
「舐めて生きてたわけじゃねーよ。」
「もう別れる!」
「えらいこっちゃねーから謝っちゃえよ。」とどん兵衛。
「もう5回目だもん。」と竜二。
「今度は絶対絶対、別れる!」メグミが泣き出す。

「お父さん・・・。
 これ、太郎が持ってたんですけど・・・。」
鶴子がどん兵衛に、腕時計を渡す。
「レロックス・・・。
 太郎ちゃん、これ、誰から貰ったの?」
「怖い顔したおじちゃーん。」
「怖い顔したおじちゃーん?
 小虎じゃねーか!!」
どん兵衛が外へと走り出す。
みんなもその後を追う。
だが、虎児の姿は既になかった。
両手で顔を覆うどん兵衛。
「靴ぐらい履いてこいよ。」竜二がどん兵衛に言う。
「お前こそなんだよ。メグミちゃんのじゃねーか。」

翌日は、竜二の真打披露の日。寄席ではその準備が進められる。
「これこれ七代目。まっすぐ帰ることはないだろう。」
ナンを手に、どん太が声をかける。
「今日で小辰も終わりだ。
 最後に、兄弟子らしいことをしてやるか。
 メグミちゃんと上手くいってないんだろ?」
『NewOpen!!
 バスガイドパブ
 桃色バスin赤羽』
と書かれたチラシを竜二に渡す。
「アニキ・・・。」竜二がどん太を見つめる。

谷中家に、元組長・中谷(笑福亭鶴瓶)と小春(森下愛子)が
結婚の報告に訪ねてくる。
「ワシももう、還暦やろ。
 組は倅と若いもんに任せてやな、
 こいつと二人で、八王子で隠居生活をしとるねん。」
「こ、こ、こいつと。
 それはそれはどうも、おめでとうございます。」
「どんちゃんにも心配かけたし、早く挨拶に行こうって言ったのに、
 メンツがどうとか言って。」
小春が中谷といちゃつく姿をどん兵衛が見つめる。
「どんちゃん、あのなー、わしらお互い、いい年してるやろ。
 今までのことは水に流してくれんかなー。」
「いや、謙ちゃんがなー、そう言ってくれるるんだったら。ねー。」
小百合も嬉しそうに笑う。
「じゃ、今後とも、一つ、よろしくお願いします。」
「そうかー。おおきに!」
「やったー!」小百合と小春が手を取り合い大喜びする。

「あのな、ところで、山崎のヤツはどないしてんやろ?」
「どないもこないも、なぁ。」とどん兵衛。
「うちにはいませんけど。」と小百合。
「え?銀次郎が追い返したって言うとったから、
 てっきりここへ来てると思ったけど。」
「追い返した!?」

夜の街。
「エロエロ探検隊!エロエロ探検隊!」
竜二とどん太が上機嫌で行進する。
「隊長ー!桃色バスを発見いたしましたー!」
目的の店の看板を見つけ、二人は大興奮。
後姿の看板持ちは、バスの運転手の格好をしている。
男の後ろ姿が気になる竜二。
どん太は竜二の手を引っ張り店の中へ入っていく。
その看板を持つ男こそ、虎児だった。

谷中家。
「なるほど。
 家長たるもの、家族を守るのはな、
 ヤクザも噺家も一緒やな。」
「わかってくれるか?」とどん兵衛。
「ああ。
 よーするに山崎は、家族ちゃうってことやろ?」
「いや、謙ちゃん。」
「冷たい男や、こいつ。
 ええかどんちゃん。
 山崎はな、借金返したらカタギにしてお前に返すって
 言うたはずやで、おい。
 そりゃ、事件起こしてムショに入っとったけど、
 罪つぐなって、出てきたらお前、
 家族やったら一番に迎えに行ってやるのが筋とちゃうんか、
 あほんだら!
 それも出けんと、何が師匠や!
 お前とは今日限りやっボケ!」中谷が席を立つ。
俺だって迎えに行きたかったよっ!!
 俺だって、俺だって、笑って迎えたかったよ。
 今だって、行きたいよ。
 ここに座ってたんだよ。3年前まで。
 一緒に笑って、一緒にご飯食べて。
 何で今いないの?
 あんたのせいだろ?
 あんたらヤクザが、うちの小虎を、
 かわいい弟子を、
 つまんねー争いに巻き込んだからでしょ?
 だからいないんでしょ。」
師匠の泣きながらの訴えに、中谷も俯く。
「家族だと思ってもさ、やっぱ家族じゃないからさ。
 会いたいときに会えないから・・・
 だから、辛いんじゃねーかよ。」
そう言い、どん兵衛と小百合は号泣する。
中谷も号泣しながら言う。
「どんちゃん!!ワシも迎えに行きたかったんやけど、
 あいつはどんちゃんに譲ったやろ。
 せやから行かれへんかったんや、どんちゃん。」
「謙ちゃん・・・」
「どんちゃん・・・」
「け、謙ちゃん・・・」
「どんちゃん。」
「謙ちゃん。」
「堪忍な、どんちゃん。」
「俺も、ごめんな。」
「意地張ってばかり。堪忍なー。」
「謙ちゃん。」
テーブルを乗り越え、手を取り合う二人だった。

看板持ちの先輩に、顔が怖いと注意され、反省する虎児。
「あれー!?林家亭小虎さんですよね!?」と声をかけられ
「いやっ、違いますよ。」と帽子を目深にかぶりなおす。
「サイン下さーい!」
差し出されたのは、ナン!!
虎児が声の主を確認する。
「エッヘッヘッヘッヘ。」竜二とどん太が笑っていた。

七代目林家亭どん兵衛襲名披露の幕が開く。
高座には5人の男達が正座をし頭を下げている。

「いよ!待ってました。七代目!」辰夫が声をかける。
「ここ、空いてますか?」リサに声をかけたのは、銀次郎だった。
「どうぞ。」とリサが返事する。

口上。

一人目は、どん吉。
「本日は、お忙しい中、弟弟子、林家亭小辰、改め、
 七代目、林家亭どん兵衛、襲名披露興行にお越しいただきまして
 誠にありがとうございます。
 七代目は、年下でございますが、キャリア20年の、
 私の先輩でございます。
 途中、路頭に迷った時期もございますが、
 なんとか、大看板を背負うことが出来ました。」


「銀ちゃん。虎ちゃんは?」メグミが聞く。
「ずっと留守電なんです。もう一回かけてみます。」

「今後とも、七代目・林家亭どん兵衛、
 どうぞよろしくお願いをいたします。」


二人目は、どん太。
「はいどうも!どん太っす。
 ぼんたんじゃございやせん。
 はい、ドーンドーンドーン!ビーバップハイスクール。
 ・・・
 硬いよ、お前はよー。
 ご老人は歯が悪いんだから。
 おいばばぁ!やってるか、ばばぁ、くそばばぁ!
 ・・・
 てな感じでね。
 さて、七代目はね、これね、俺の弟!
 私が慎太郎なら、こいつが裕次郎、ね。
 例えが古い?
 ならね、私が智恵子なら、こいつは美津子。
 倍賞ばいしょう損害賠償!
 ・・・
 てな感じでね、よろしく四万十川!
 ・・・
 ハイ、ドーン、ドーン、ドン、チャカカーン!」


「いいぞ、どん太。一生、二つ目だ。」会場からの辰夫の言葉に客らが笑う。
「イャーーッ!腹立つ!そば辰!」
会場から笑いと拍手!

3人目は、どん兵衛。
「いっぱいのお運びで、ありがたく、御礼を、申し上げます。
 林家亭、小猫でございます。」

「小猫だってよ。」と辰夫。
「流石に緊張してやんなー。」と半蔵。

「襲名披露ということでございますので、
 いささか、気恥ずかしいのではございますが、
 この野郎のことについて、ご紹介を申し上げたいと思っております。
 この野郎が、母親の胎内におりました時は、逆子でございましてね、
 生れ落ちた時は体重が4000gあったんです。
 もう、私の愛妻小百合が、ギャーっと言いながら
 産み落としたわけでございますが。
 その悲鳴が静岡県まで聞こえたんです。」


「アハハハ。そこからしゃべんのかよー。」と辰夫。

「いろんなことがございまして、
 いろんなことがございました。
 ほんでまぁ、今日にいたるわけでございます。」


会場、大爆笑。

「この野郎の、人間性は、まぁともかくといたしまして、
 芸の方はまぁなかなかのもんでございまして、
 七代目、林家亭どん兵衛の名に恥じぬよう、
 まぁ、私、小猫を始め、一門のもの叱咤激励していく所存で
 ございます。
 どうぞ、いっそうのお引き立て、賜りますよう、
 お願い申し上げます。」


「ハハハ。また小猫って言ったぞ。」と辰夫。
「どうだった?」メグミが銀次郎に聞く。
「ダメ、留守電。」

4人目の男が顔を上げる。虎児だ!!

「虎ちゃん!」とメグミ。
「アニキ!」と銀次郎。
「小虎じゃねーか。」と辰夫。

「恥ずかしながら、戻って参りました。
 林家亭小虎です。
 いや、三代目・林家亭小虎です。」


ざわめく会場。
竜二が虎児と目を合わせ微笑み、応援する。

「えー。七代目・どん兵衛師匠の計らいで、
 こうして高いところに座っている訳で。」


喫茶店。
「元気そうですね。」竜二が3年ぶりに会う虎児に言う。
「・・・気い使うな。」
「そりゃ使いますよ。桃色バスだし。」
「あ。まぁ俺も、生きていかなきゃなんないからなー。
 お前もそろそろあれだろう。襲名・・・。」
「そうなんすけどね。なんか調子出ねーっていうか。
 だって、もともとどん兵衛の名前継ぐのは俺じゃなかった
 訳じゃないですか。
 師匠も口ではそう、」虎児が急に竜二に接近する。
「・・・何で師匠って言ったら前に出てくるんすか。」
「・・・お前、やめろよ。」
「いや、止めないっすよ。
 これ言わないと、前に真打になり損ねた時と同じ事になりそうで。 
 すいません。
 俺よりによって『子別れ』やるんすよ。 
 久々に追い込まれてるんすよ。
 なんならあんたと変わりたいっすよ。
 桃色バスで働きてーんですよ。」
「・・・・・」
「あーもうじれってー!
 何黙ってるんすか!
 もう落語やんねーの?
 あんなにハマってたじゃん。
 刑務所入ったくらいで辞めちゃうんだ。
 俺が辞めてた時あんた何かっていうと、
 落語やれ、落語やれって言ってたじゃん。
 あん時の俺の気持ち、あんたすげーわかるはずだ。
 ウゼーんだよ。
 やりてーと思ってること他人にやれって言われるの
 すっげーウゼーんだよ。
 俺もわかりますよ。・・・あん時のあんたの気持ち。

無言なままの虎児。
「・・・いいや。言いたいこと言ったらすっきりしたし。」
竜二が帰ろうとする。

「何だい?
 お父っつぁんといったら前に這い出してきやがった。
 何を言うんだい、バカな子だよー。
 そうならそうと、最初からそう言えばいいじゃないか。
 で?お父っつぁんは酒に酔っ払って、又汚いなりをしていたかい?」
「ううん。綺麗な半てん着て、お金いっぱい持っていたよ。
 変な女なんぞ追い出しちまって、一生懸命稼いでるんだって。
 お前にも苦労かけたなって、お父っつぁん、泣いてたよ。」

一人落語を語りだす虎児を、竜二は嬉しそうに見つめていた。

「明日ね、ウナギ食べに行こうって。
 行ってもいいかい?」
「・・・ああ。行っておいで。」
「翌日、女親は子供にこざっぱりしたなりをさして送ります。
 自分も気になるから、鏡の前で鼻の頭を二つ三つポンポンと
 叩いて。
 決まりが悪いから鰻屋の前を、4、5度行ったり来たり。」

虎児が竜二を見る。
「刑務所にもよ、図書設備ってのがあってよ、
 好きな本借りれるんだよ。
 俺、落語の本借りまくって覚えまくったんだよ。
 『寝床』『死神』『目黒の秋刀魚』『鼠穴』『道具屋』
 『時蕎麦』『居残り左平次』『火事息子』『火焔太鼓』
 100までは数えてたけど、とりあえず叩き込んで、
 同じ部屋のヤツに聞かせたりして。
 でも肝心なことが本には書いてなくてよ。
 たとえば、『子は鎹』のかすがいって何だよ、とか。
 前だったら師匠が教えてくれてたんだけどよ。
 ・・・いねえから。」
「あれだよ。柱と柱をくつける、出っ張り。
 柱がとれねーように、小さい木を金槌で打ち込むんだよ。
 わかんねーけど、見たことねーから。」
「あーあーあー。
 『どうりでゆんべ金槌で頭をぶつと言った』って。
 そういう意味かぁ。なるほど・・・。
 これで完璧にわかったよ。」
「明日高座でやれば?」竜二が言う。
「えっ!?」

高座に小虎の出囃子が鳴り響く。

「本当にいいのかよ。お前の襲名興行だろう。」
楽屋で虎児が竜二に言う。
「気にするな。俺は『じゅげむ』でもやるからさ。」
「でも師匠が・・・。」
その頃師匠は観客席に座り小虎登場を待っていた。

虎児が高座に上がる。
「え・・・。後がつかえてますので手短に。
 子は鎹と申しまして、」

「おっ、『子別れ』だね。」と辰夫。
「『子は鎹』だよっ。
 『子別れ』の上中下の下だけやる時は『子は鎹』なのっ。
 チクマ文庫落語100選より。
 ・・・
 ま、何でもいいや。
 え~反物屋の竜が、」


「待ってました!」と辰夫。

「うるせーぞテメェこのやろう!
 久しぶりなんだから喋らせろ。」


辰夫、客席からごめんと謝る。

「え~反物屋の竜が、ヤクザもんの虎って男と再会しました。
 が、しかし、竜の父親、猫蔵と虎は、3年前に仲たがいを
 しておりまして、ま、なんとか竜はこの二人を引き合わせようと
 頭をひねりました。」


谷中家。
「ただいまー!」どん太と竜二が声を揃える。
「遅かったね。どこ行ってたの?」とメグミ。
「うん、ちょっとな。」と竜二。
「ちょっと待って。何これ!?」
メグミが竜二の首にかけられたスカーフに気づく。
「ヤッベー。」二人が又声を合わせる。
「これうちの制服のスカーフじゃないよね。どうしたの?」
「もらったんだよー。」わざと大きな声で答える竜二。
「怪しい!誰に?誰にもらったの?」とメグミ。
「いや、それは言えないよー。」大声で答える竜二とどん太。
「言えないなら叩くよ!」とメグミ。
騒ぎを聞きつけどん兵衛がやって来た。
竜二とどん太が顔を見合わせて笑う。
「竜ちゃんが、他のバスガイドと浮気したー。」
メグミがどん兵衛に泣きつく。
「バスガイドじゃねーよっ!バスガイド・パブだよ!」と竜二。
「バスガイド・パブ!?」とメグミ。
「ヤバイよヤバイよ!竜ちゃん、ヤバイよ!」
どん太がわざと事を荒立てる。
「最低!ここにバスガイドがいるのに、まだ他のバスガイドが
 欲しいの?
 今度こそ別れる。絶対に別れる!」
メグミは泣き出し、どん兵衛も頬を膨らまし怒る。
「違うって。小虎さんが働いてる店だよ。」
「何!?」どん兵衛が前に出る。

「なんだい?小虎って聞いたら、前に這い出してきやがった。」

「小虎が働いてるのか?そのバスガイドヘルスで?」
「ヘルスじゃないよ、パブ、パブ!
 あ~~~~。」
どん太がわざと、手に持っていた店のチラシをどん兵衛の足元に
落とす。それを拾い見つめるどん兵衛。
「小百合ちゃん!小百合ちゃん!タクシー捕まえてくれよ。」
「どこに行くのよ、こんな時間に。」
「だからさ、まぁいいや。俺が捕まえる。」
そう言いどん兵衛は出かけていく。
竜二とどん太は手を握り合い成功を祝う。

「一方、猫蔵は、鼻の頭を二つ三つポンポンと叩いた、
 かどうかはわかりませんが、
 ま、出かけていって、決まりが悪いから店の前を
 四、五度、行ったり来たり。」


「師匠!」
店の中からなぜか熊五郎(虎児)が飛び出してくる。
「お前さん・・・。」と妻(どん兵衛)。
二人はしばし見詰め合う。
「あ、あ・・・
 昨日、お小遣いもらって、で、今日は、鰻をご馳走になって、
 一言お礼を差し上げようと思って伺ったんだけど・・・
 お前さんだったのかい。」

「実は昨日、亀に会ってねー。
 鰻が食いてーて言うから、じゃー食いに行こうかって。」
「うん。」
「しゃべんなって言ったのに。
 子供はどうも無邪気だから。」
「うんうん。」

「昨日ひょっこり亀に会ってね、」
「うんうん。」
「鰻が食いてーって言うから、」
「へ~。」
「しゃべっちまったのかい。」
「うん。」

「ひょっこり昨日亀に会ってねー。」
「うん。」
「鰻が食いてーって言うから、」
「うんうん。」

「・・・何やってんだよ。」竜二が二人に声をかける。

店内。
「いい加減座ったらどうですか?」
竜二が土下座する虎児に言う。

「いや、そうはいかねー。
 俺はよ、こっから始まってるんだ。
 もう一度ここに戻んねーと始めらんねーよ。

 師匠!頼むー!
 俺をもう一度、粋でオツな男にしてくれー!」

「しょうがねーなーもう・・・。」
どん兵衛が虎児の前に座り土下座する。
「お前さんに関しては、俺もこっから始まってるからね。」
「師匠・・・。」
「私の・・・弟子になっておくれ。」
師匠が頭を下げて虎児に言う。
「師匠ーーーっ!!!」師匠に抱きつく小虎。
「小虎ーーーっ!!!」師匠がしっかり受け止める。
「師匠ーーーっ!!!」
「小虎ーーーっ!!!
 よかったよかった。」
二人は抱き合い涙する。

「すいません。ホモじゃないんでご心配なく。」
竜二が店の客たちに声をかける。
「みんな見てるから。」
二人の抱擁をやめさせようとするが、二人は人目も気にせず
抱き合い泣き合う。
竜二が無理やり引き離そうとすると、どん兵衛が床に倒れこみ
仰向けに。
その上に覆いかぶさり抱きしめる虎児。
師匠も虎児をしっかり抱きしめる。

そのままの姿勢で、師匠が竜二に言う。
「しかし何だなー。
 今回ばっかは悔しいけどな、お前のお陰だよ。
 三年ぶりになー、小虎に会えた。
 ちょっと小虎、ちょっと起きていいか。」
「おぅ!おぅ。」
師匠を起こす虎児。
「してみるってーと何だな。
 子供というのはなんだな。」と師匠。
「おぅ。なんだなー。」と虎児。
「おぅ!どうりでカレーが無いと食えないって言った。」と竜二。

「そっちのナンじゃねーよ。」
小虎が客席に礼をする。
会場からは大きな拍手が沸き起こる。
日向が、銀次郎が、リサが、メグミが、チビTが、
よしこが、半蔵が、辰夫が、
スタンディング・オベーションを送る。
「よく帰ってきたな。小虎!!」辰夫が叫ぶ。
みんなの温かい拍手。小虎の目に涙が浮かぶ。
舞台の袖からは、竜二や弟子たちが拍手を送っていた。
師匠は涙を流しながら、客席の拍手に感謝していた。

「タイガー タイガー 」小虎に合わせて
「じれっタイガー!」観客が言う。
観客を見渡し、感動にひたる虎児。

「あ、タイガー タイガー」
マイクを客席に向けて
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」
舞台の袖のみんなも参加する。
小虎が客席に下りていく。

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」
観客席に座る師匠の手をひき、立たせる。
泣き顔を両手で隠す師匠。

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
虎児がマイクを師匠に向ける。
「ありがタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

「タイガー タイガー」
「じれっタイガー!」

虎児が最高の笑顔で客席と一緒に叫び続けた。


はぁ~。感動的なラストでした。
虎児も竜二も銀次郎も、よかったね!

出所しても、会いたい人たちは誰も迎えに来ておらず。
3年の間に、みんな驚くほど成長していた。
自分は忘れ去られたようで、きっと虎児は寂しかっただろうな。

いきなり3年後、ということで、視聴者も虎児の目線と同じ。
3年の時間の流れが、所々にちりばめられていました。
虎児の大切な家族達にも大きな変化が見られ・・・。

たとえば、どん太と鶴子の子供の成長。
子供の3年間って目に見えてすごく違いますよね。

ドラゴンソーダの人気にもびっくり!
さらに、半蔵は店をたたみ、そば辰の辰夫さんは再婚。
純喫茶よしこだけは、時代の流れが止まっていてほしい気が。(笑)


一番驚いたのは、どん兵衛の、二代目小虎襲名!
本心では、『小虎』という名前を守っていたかったんでしょうね。
あのめくりを見た時、ウルウルきました。

小百合ちゃんの叫びも、ぐっと来るものがありました。
今まで物静かだった小百合ちゃん。
いつも「小百合ちゃんが泣いている。」とどん兵衛に気遣われて
いたのが、今回は立場逆転。
父を責める息子をたしなめ、夫を守る妻。
本当に素敵な夫婦です。

そして、竜二の襲名。
今まで、父と虎児の関係に、彼は時折複雑な表情を見せて
きました。
それは、親子としてなのか、師弟としてなのか。
嫉妬のような気持ちもあったと思います。

虎児を落語の世界に引き戻したのは、竜二でした。
以前、虎児が竜二に働きかけていた時と、反対の立場になる。
だから、お互いの気持ちが痛いくらい理解出来たんですね。
彼自身、家を出た後も、ずっと落語の世界に戻りたいと
思ってきたんですね。


虎児のもう一つの家族。
組長は八王子に帰り、小春ちゃんと再婚!

銀次郎の成長。
銀次郎の、虎児への言葉は迫力がありました。
二人の絆の強さも伺えます。
こちらも、血は繋がらなくても兄弟のようですよね。
最初、遠目から銀次郎の今を知った虎児は寂しそうでしたが、
二人でちゃんと話したあとは、彼の成長を心から喜んでいるように
見えました。


スカーフを小判に見立てての現代版『子は鎹』。
どん太・竜二兄弟の、父を引っ張り出そうと演技するところが
微笑ましかった。

師匠と聞き、前に這い出る虎児。
虎児と聞き、前に這い出る師匠。
血は繋がらなくても、二人は間違いなく親子ですよね。


デス・キヨシがカレー屋でサインをしたのがナンでした。
そのナンが、最後に登場するとは!


どの回も、落語の世界と現代のドラマが見事にリンクしていて
とても楽しめました。
クドカンさん、スタッフさん、出演者の皆さん、お疲れ様!!
続編、待っています!



参考にさせていただいたサイト:
コウの鑑賞人blogさま落語『子は鎹(かすがい)』

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