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タイガー&ドラゴン 第10話

塚本高史 2007. 11. 20. 23:55

タイガー&ドラゴン 第10話

『品川心中』

オープニング、高座に上がるのは林家亭どん兵衛(西田敏行)。

「え~。いっぱいのお運びでありがたく御礼申し上げます。
 30年も昔になりますが、私が初めて高座に上がりましたとき、
 お客様は、3人でございましてね。
 そのうち2人は、話を始めて、まもなく居眠りということでございます。
 撃沈でございまして。
 便りの一人は、急に手を上げられまして、「ションベン!」
 黙ってじっと待っておりますと、居眠りをしておられました一人が、
 「何で噺やめんだ。急にやめるから目~覚めちゃったじゃねーか!」
 本当にもう、今の若い人は幸せでございますな。
 まぁ今日は、大ネタでございますので、この位にいたしまして。

 品川に、城木屋という貸し座敷がございまして、
 そこで板頭を努める、お染という花魁(おいらん)がございました。」


ドラゴン・ソーダ。
「板頭というのその店の一番人気。
 つまり稼ぎ頭の、」
「え?」
店の服にタグを付ける店員のリサ(蒼井優)に声をかけられ、
我に返る竜二(岡田准一)。
自分が無意識に独り言を言っていたと知り、竜二も焦る。
「そろそろ衣替えですね。
 中学の頃間違って冬服着て来ちゃう子、いませんでした?
 結構目立っちゃうんですよね。」リサの世間話に、
「花魁の衣替えを紋日と申しまして、これが大層お金が掛かる。
 朋輩をお座敷に呼んで、芸者ほうかんを集め飲んで騒いで
 みんなに祝儀をやってお披露目をしないと、」
「店長!店長!
 病院行った方がいいんじゃないんですか?」
「つーか俺、落語やった方がいいかもしれねー。
 俺入門する!!
 リサちゃーん、ここら辺に便箋なかったか?
 親父に手紙書く!」
「リサちゃん!?
 ・・・ポストカードならありますけど。」

「まとまった金がいる時には、四方八方お客様に手紙を出して、
 助けてもらうわけでございます。
 ま、今で言う、カンパでございますな。
 しかしま、若くて売れている花魁だったらばともかく、
 今のお染は、お客様から返事一本も来ない。
 ましてやカンパも集まらない。」

「あぁ、悔しい。悔しいよ。
 こんな悔しい思いをするんだったら、いっそ死んじまった方がましだよ。
 でも、一人で死ぬのはみっともないし。
 そうだ。一緒に死んでくれる相手を見つりゃ心中ということで、
 浮名も立つ。格好もつくよ。」


ドラゴンソーダ。
師匠に手紙を書く竜二に、チビT(桐谷健太)が本気なのかと聞く。
「思い立ったら吉日。」
複雑な表情で見つめるリサ。
「そんな顔しないでよ、リサちゃん!週末には顔出すからさ。」
「だから、ちゃん付けやめて下さい!寒気がする。」
「そうだよね。今日から店長って呼ばなきゃ。」
竜二はバーゲン用のDMを作ろうと、顧客リストを取りにいく。
リサに手渡され、「サンキューでーす!」

「この人も嫌。
 この人はいいんだけど、親孝行だし。
 あ、この人もいいんだけど、女房子供がいるしなー。
 えーと・・・
 いた!中橋の本屋の金三だよ。
 ふふ。
 私はなーんとも思っちゃいないんだけど、
 この人だけ一人で夢中になってんだから。
 決ーめた!」


竜二は部屋の荷物をまとめ、劉さんとチビTに挨拶する。
「いつも意地悪してごめんね。 
 これ、餞別。」
チビTが泣きながらお饅頭一つと200円を渡す。
「どうせ2、3日したら帰ってくるって。」と劉さんは言うが
「もうここには帰ってこないよ。
 上使っていいからさ。」
劉さんもチビTも泣いてすがった。

「こうして、お染は心中の相手を決めました。
 これが世にいう、品川心中の始まりでございます。
 これが、やりたかったんでございます。
 Tiger, and Dragon!」

カメラ目線で言ったあと、お茶目に笑うどん兵衛!

虎児の所属する新宿流星会は、いよいよ存続が危うくなり、
力夫(橋本じゅん)率いるウルフ商会に身売りの話を持ちかけられる。

力夫はテーブルに大金を置き、日向(宅間孝行)に何ヶ月給料を
貰っていないか尋ねる。
「うち来たらドーン!」と札束をテーブルに投げ付ける。
「うちには金で動く人間はいない!」と怒る銀次郎(塚本高史)。
ウルフ商会の人間がそんな銀次郎の写真を撮る。
「命賭けてんだよ!痩せても腫れても流星会に骨埋める覚悟なんだよ!」
と銀次郎。
「今時!!
 仁義やら任侠やら、そういうクサイこと言ってるから見てみー。
 山崎入れて組員4人しかおれへんようになってもーたやんけ。
 それと、痩せても枯れてもだ。腫れてどうする!」

「力夫のやつ、弱みに付け込みやがって。」
組長はその場にいなかった虎児に、そのことを話す。
虎児は初めて日向が給料を貰っていなかったことを知り驚く。
「それは今、いいから。」と日向は言うが
「よくねーっす。自分はきっちり貰っているのに。」と虎児。
「アニキには落語の授業料もある。」と銀次郎。
「日向さんだって新婚だし、」
「まだわかんねーのか、虎!
 おやっさんの、心遣いだろうが・・・。」
「解散やな・・・。すまんな銀次郎。
 流星会はワシで終わりや。」
「親父~!」
「寂しいこと言わないで下さいよ。自分の生活費ぐらい、バイトで。」
3人が肩を寄せ合って泣きながら、虎児を見つめる。
「何でこっち見るんすか?」

竜二が荷物を手に家に戻ってきた。
「ごめんください!」
竜二の声に、家族たちが泣きながら出迎える。
「待ってた・・・竜二、いや、小辰!!」どん兵衛が言う。
「手紙、読んで・・・くれた?」
「もちろんだよ!もちろん!ほら!」
師匠が指を刺す方向を見る竜二。
壁には、竜二が出した手紙が額に入れられ飾られていた。

『前略
 林家どん兵衛様にお願いがあります。
 さて、誠に突然のことで恐れ入りますが、折り入ってお願いしたい
 事がございます。
 私、谷中竜二は六月吉日、入門をお許しいただきたく伺い候。
 一度家を出た身でこのようなお願い申し上げるのは
 大変かってな事で心苦しいのですが、やはり
 私は落語を一筋に精進していきたく心を決めました。
 今後は林家亭どん兵衛師匠のもとで修行をさせて頂きたく
 重ねてお願い申し上げます。草々。谷中竜二。』
達筆で、文章も素晴らしい竜二君です。

「師匠!
 今日から、落語一筋で精進していきますので、
 どうか、入門お許し下さい。」
「よしなよ、そんな他人行儀な挨拶は。
 小百合ちゃんが泣いちまうじゃないか。」
「小辰・・・」と泣き崩れる母・小百合(銀粉蝶)。
「さ、顔を上げて。今日からお前は、家族の一員なんだから。」
兄・どん太(阿部サダヲ)もそう言い、二人はしっかり抱き合う。
「しっかりやりなよ。小辰!」他の弟子たちも、笑顔で迎える。
「アニさん!!」
姪のサヤがヒモを引くと、くす玉が割れ、中から紙ふぶきと
『お帰り、林家亭小辰』と書かれた垂れ幕が出てきた。
「ありがとう!みんな、ありがとう!!」竜二、大感激。

・・・というシチュエーションを想像し、家の前に立つ竜二。

だが、竜二が「ごめんください、」と言おうとした時
別の客人に先を越される。
「たもっちゃーん!」
その客人に抱きつくメグミ(伊東美咲)。
その男は、メグミの元旦那・保(菅原大吉)だった。

谷中家の人々は、竜二には目もくれず。
青森物産展に保のリンゴが出品するため、上京してきた保を
手厚くもてなす。
どん兵衛が恒例の家族紹介を始める。
「このウルサイのがどん太。
 嫁の鶴子。孫のサヤちゃん、太郎。
 で、こっちが弟子になるわけですが。」
部屋の隅で様子を見つめる竜二。
自分の番かと思い、正座しかけたが、弟子に行ってしまい、ガッカリ。
「これがどん吉、どんつく、どんぶり、
 で、お前、何だっけ?」
「うどんです。」
「アッハッハッハ!うどんだって!超ウケル!」保が笑う。
うどんは、名前で受けたと、兄弟子たちと大喜び。
「保さんのお陰で、家の中ぱーっと明るくなったわね。」と小百合もご機嫌。
「これが、家内の、小百合でございます。」
「で、あそこにいるのは、どなたなんですか?」
「どなたじゃねーよ!
 青森のあんたの家に行ったろ!」
「なんだお前。何してんの?」どん太が竜二に聞く。
「何って・・・。
 先日、お手紙を出したんですけど、読んでいただけていないようですね。」
「お手紙?」
小百合がポットからティーパックを出し、それを竜二のハガキの上に
乗せる。
「あぁ、これか。そういえば何か書いてあったな。」とどん兵衛。
竜二が正座をして言う。「にゅ、入門のお許しをいただきたく。」
「あぁあぁあぁ。はいはい。」
「そんだけかよ!」
「ごめんなさい。こんなものしかなくて。」小百合がお菓子を出す。
「それ、玄関にあったから。」と鶴子。
「俺が持ってきたんだよ!
 それより、俺の入門とこのおっさんとどっちが大事なんだよ!」
「お客さんに決まってんだろ!」とどん太。
「ギャーギャーうるさい!
 だったらお前、玄関掃除しろよ。見習いなんだからよ。」
どん兵衛に言われ、竜二、泣きべそ。

竜二が家の前を泣きながら掃除していると、メグミが声をかける。
「竜ちゃん!なんか、ごめんね。」
「別に。タイミングが悪かっただけさ。」
「もうすぐ、保ちゃんも帰るし、そしたら改めて挨拶すれば?」
「帰るって、どこへ?」
「ホテル。」
「メグミちゃんは?」
「せっかくツインのお部屋だから、泊まる!」
竜二、またまたショック!

そのとき、一台の車が谷中家の前に止まる。
車の窓を開け灰皿の吸殻を捨てる男に、竜二は抗議。
だが、その車から孫りてきた男を見て固まる。
力夫だった。
虎児をヘッドハンティングしに来たのだ。

谷中家に上がりこみ、虎二を待つウルフ商会の男たち。
どん兵衛は葉巻の煙にむせながら、恒例の家族紹介をしていた。
みんな、怯えきっている。
「で、弟子の方に移らせてもらいます。
 どん吉君です。どんつく君です。どんぶり君です。
 で、君は誰だっけね?」
「ムラタススムです。」
「本名言っちゃったよ・・・。」

どん太が虎児にどんな用かと聞くと、力夫はテーブルを叩いて
怒鳴り始める。
「すいません!興味もござんせん!イッヒッヒッヒ。」とどん太。
「小辰!お前さん、会ったことがあるんだろう?」
どん兵衛が助け舟を求めるが
「自分、見習いですから。」と背中を向けて掃除を続ける。
そこへ、虎児が帰ってきた。

力夫は、流星会の合併吸収話を虎児にもちかける。
ウルフ商会へ行くか、流星会が潰されるか、
虎児は、二者択一を迫られる。
そこへどん兵衛が、竜二が止めるのも聞かずに割って入る。
「困ります!!ごめんなさい、お話中に。
 この男には、一日も早く足を洗ってもらって、
 立派な噺家になってもらわないと困るなーと思ってるんです。」
「どういうこっちゃ?」
 実はですね、私、この男に、私の名前をですね、譲ろうと
 思ってるんです。」
「親父・・・。」
 ごめんな、竜二。せっかく帰ってきてくれたのに。
 そういう訳なんだよ。
 俺は、こいつが気に入ってるんだよ。手放したくないんだよ。」
「師匠・・・。」
「そうだ!俺ね、この男に230万の借金があるんですよ。
 完済するまでこいつはあくまで私の弟子であり債権者であるんで、」
「やかましい!そんなはした金、ワシが払うから、
 山崎!ウチ来いや。それが、世話になった組長への恩返しに
 なるんやで。」
そう言うと、力夫は帰っていった。
力夫が言った言葉を考え込む虎児・・・。

「あぁ金三さん、よく来てくれました。
 実は相談したいことがあるんだよ。」
「おぅおぅ!全て飲み込んだ!」
「何言ってるんだよー。
 まだ何も話していないじゃないか。」


「品川心中だねー。」と辰夫(尾美としのり)。
「小辰が帰ってきたらしいね。」半蔵(半海一晃)が聞く。
「小虎もうかうかしてらんねーな。」
辰夫が隣に座る虎児の股間を掴む。
「うるせーよ!」
真剣なまなざしで師匠を睨む虎児が、辰夫の手を払いのける。
「なんだよ。江戸っ子のスキンシップじゃねーかよ。」
師匠の高座を、小辰も舞台の袖口からじっと見守る。

「残された金三(竜二)が、布団の中から
 首出したり引っ込めたり首出したり引っ込めたり。
 しばらくして、金三が布団からはい出して見ると、
 お染(メグミ)が、行灯の下で手紙を書いておる。」

「やだ!イビキかきながら目~開いたりして。
 ほ~んとヤボな人。」とお染。
「どうせヤボだよ!目の前で情夫に手紙書かれるくらいだからな。」
金三が言う。
「情夫がいたら苦労しないよ。
 お前が寝ちゃったからお前に当てた手紙を書いてるの。」
金三がその手紙を読む。

『かねて御前様もご存知の通り、この紋日には、金子なければ
 行き立ち申さず。
 他に談合いたすにも、鳴くに鳴かれぬうぐいすの、
 身は間々ならぬ、かごの鳥。
 ホーホケキョーまでお隠しもうしそうだえ、
 もはや、あいかなわず、
 今宵限り、自害いたして、あいはてもうし候。』


師匠に合わせて、手紙に書かれた文章を真剣な表情で言う竜二。

「ダメだー。全然頭に入ってこねーよ!」
目をまんまるくして言う虎児。

「自害!オイオイオイ!
 これほどのことがあるなら話をすればいいじゃないか!」
「話そうと思ったら、お前薄情でぐーぐー寝てるんじゃないの。
 そういう頼りない人だから。」
「金で済む問題なら俺が何とかする。
 いくら必要なんだ!?」

そば辰。
「230万?」メグミが聞き返す。
「そう!あと230万あれば小虎さんが堅気になる。
「それを竜ちゃんが払うの?」
「俺に出来るのはそれぐらいだから。」
「元々はお前の借金だしなー。」
辰夫が乱入し、竜二の股間にタッチ!『江戸前のスキンシップ』と言う。

「親父の高座を袖から見て、いろいろ考えたんだよ。
 借金残ってるのと俺が噺家になるのは、関係ねーことだろ。
 虎児さんが足洗えねーってーのも、おかしいって言うか。
 だからあと230万作るまでは、やっぱ俺、高座に上がれないわ。」
「竜ちゃんはさ、誰のために落語やろうと思ってんの?
 虎ちゃんのため?お父さんのため?」
「何?なんでそんなつっかかってくんの?」
「別に。酔いがまわっただけ。
 風に当たってこようっかな~。」
「俺も~!」
メグミの後を追おうとする辰夫を突き飛ばしメグミの後を追う竜二。

「ねぇ、何?
 言いたいことあるんだったらはっきり言ってよ。」
「言いたいことあるのは、そっちでしょう?」
「何?わかんないんだけど・・・。」
「聞かないの?たもっちゃんのこと。
 帰ってきて欲しいって言われたの。青森に。」

「本当かい?」お染が微笑む。
「死ねる!おめ~の為だったら、喜んで死ねる!」
「私のようなバカは本気にするよ。ホントに死んでくれんのかい?
 心中だよ?」
「死ぬ時はよ、二人そろいで白無垢来て、な。
 あの二人は、覚悟の上の心中だ。
 後に浮名が残るように。」
「うん。じゃー今夜ね。」
「あ、今夜はダメだ。明日青森物産展が。」
「死ぬ人間が何言ってんだ~?」
「あ、あぁ!兄貴に挨拶に行かねばなんねーんだな。
 明日、明日にしてくれ。」
「きっとだよ、金さん。」
「お染。」

「それで?」竜二が聞く。
「それでって・・・それだけ。」
「ごめん。言葉が見つかんないんだけど。」
「別に、竜ちゃんに何か言って欲しかったわけじゃないもん。」
メグミが駆け出す。
「待ってよ!
 メグミちゃんそんな複雑なキャラじゃなかったじゃん!」
「キャラなんて関係ない!
 メグミは、アニメでもゲームでもないもの!
 人間だもの!」
「人間・・・だもの?」
「バカにしないで!」メグミは走って行ってしまう。
「うわぁ・・・めんどくせ~。」竜二が呟く。

「おはようございます!
 兄貴、おはようございます。」
金三(虎児)が兄貴(日向)に声をかける。
「冗談じゃねーや。もう昼過ぎだぜ。」
「では、失礼します。」
「おう、待て!金三、ちょと待て。
 お前が来たら、ちょっと意見しようと思ってたんだ。
 近頃品川の方へだいぶ通っているらしいが、やめときな。
 どうせ女に心中でもふっかけられるのが関の山だ。」
「へっへっへっへ。」笑っていた金三、しまいには泣き出す。

流星会。
「何笑ってんの?」
組長が竜二に聞く。
「あ、あの・・・日向さんは?」とごまかす虎児。
「ちょっと休ませてる。新婚だから。」と組長。
虎児はどん兵衛の前回分の支払いを組長に渡す。
「『粗忽長屋』、やったらしいな。
 たいしたもんやな。あんな難しい噺。
 わしと一緒におったらおもろなかった虎が、
 今では高座ではドカンドカン!と客を笑わせてるんやさかいな。
 落語って、おもろいか?」
「はい!面白いです。」
「せやろ。
 あとなんぼ残ってる?」
「230万。」
「一つ20万で、2x11で、10万足らんな。
 最後の10万はな、わしが短い噺教えてやるわ。」
「おやっさん・・・。」
「がんばりや。」

ウルフ商会。
虎児は力夫に、頭を下げ、組長を裏切ることが出来ないので、
この間の話は聞かなかったことに、と言う。
「そういうことなら、流星会、潰すだけのことや。
 あ!ごめん、この話も聞かんかったことにしてや、噺家はん。
 さいなら。」

ドラゴンソーダ。
見習いの間、収入がないからと、竜二は店の前を掃除していた。
店の中ではリサと銀次郎が別れ話でもめている。
「やだ!リサ絶対に別れない!」
「お前のためを思って言ってるんだよ。
 俺はこれから生きるか死ぬかのシバラに突入なんだよ。」
「修羅場でしょ?
 シバラとか言ってるヤクザが活躍出来るわけないじゃん!」
店にいた女性客たちが逃げ出していく。
「またお越し下さいま~せ~。」
竜二とチビTが踊って挨拶!

「絶対やだ。絶対別れない。」
リサはハサミを握り締めた。

「あぶねーよ。剃刀はいけねーって。
 薄いもので切った傷は治りにくいっていうから。」
金三(銀次郎)の言葉にため息をつき、お染(リサ)が言う。
「やっぱり死ぬつもりなかったんだ。
 私を騙したんだね!」
「バカ言うな。死ぬ気で来たんだよ。
 だからこうして白無垢で。」
「腰から下がないじゃない!
 いいから来な!」
お染は金三の手を引き走り出す。
そして橋の上。
「金さん、私もすぐに行くから堪忍しておくれ。」
お染はそう言い、金三を橋から突き落とす。
「私もすぐに行くからね。」
お染も後を追おうとするが、お染を探していた男たちに取り押さえられる。
「○町のダンナが、懐に50両持ってやってきたんだ。
 金が出来たんだ!」
「本当かい?」

純喫茶よしこ。
「嘘ついてどーするんだよ。私は中条きよしじゃないんだよ。」
高田亭馬場彦(高田文夫)が虎児に金を差し出す。
ジャンプ亭ジャンプこと淡島(荒川良々)が説明する。
「事情を聞いた師匠が、芸能協会に声かけてカンパを集めたの。
 小しん師匠(小日向文世)は最後まで渋ってたが
 昨日20万ぽんっと出してくれた。」
「なんで・・・なんでみんなそこまでしてくれるんだよ。」と虎児。
「みんなお前さんに堅気になって欲しいんだよ。
 さ、しまいな。出世払いでいいから。」と淡島。
「受け取れねーよ。
 金じゃねーんだよ。俺は落語の腕上げて、客を笑かして、
 その結果として堅気になりてー。
 まぁ堅気になったとしても、・・・
 悪いな。気持ちは嬉しいけど。
 俺優しくされるのも、慣れてないからさ。」
虎二はそう言い、店から一人帰っていく。
「師匠!どうしましょう?」
「どうしましょうって、自分の頭で考えろよ。
 今私は、ピスタチオに夢中だから!」

ヘッドホンで師匠の『品川心中』を聞きながら歩く虎児。
かつての十八番だった『品川心中』を呟きながら歩く竜二。
橋の上で二人の目が合う。

部屋で博打をする男たち。
戸を叩く音に、手入れと思い明かりを消して博打の道具を隠す。
戸を開けると、血だらけの男(虎児)が立っていた。
「兄貴!」
「金三か!?」
「なんだそのザマは?」
「品川で、心中のしそこない。」
「ほらみろ。言わんこっちゃない。
 心配すんな、金三だ。」

「誰かハシゴを持ってきてくれー。」
「てめぇか!俺の頭を踏んだのは!」
「だれだ!頭突っ込んでんのは?」
「逃げる前に、腹ごしらえをと思って。」
「助けて下さいー!
 落ちたとたんに急所を売って、金玉が飛び出しました。
 大事なものだから、しっかりと持っています。
 ・・・あれ!?これナスだ。
 自分の金はちゃんとありました。
 はい、どーんどーんどーん!ドン松五郎。」

「どいつもこいつも情けない・・・。
 見てみろ。伝兵衛さんを。
 流石は元お武家様だ。
 この騒ぎにびくともしないで、しゃんと座ってら~。」
「そう、お褒め下さるな。
 拙者とうに、」

「腰が抜けています。」
虎児と竜二を前に、『品川心中』を聞かせたどん兵衛。
「え?終わったの?」と虎児。
「なんだよ。心ここにあらずx2だな。」
「つーかよ、又オチの意味がわからなかった。」
「わからなくていいんだよ。だってオチてないんだから。」
「えーっ!?」
「続きがあるんですよ。今のは前半。」と竜二。
「後半はな、仕返しといって、金三がお染に復讐する噺なんだが、
 今はもう誰もやらないな。暗くて笑えないからよ。
 笑わない噺なんて誰も聞きたくないだろう?
 わたしたちの商売はね、小虎、小辰、
 お客様を、楽しませることなんだからね。」
「そんなこと今更言われなくてもわかってるよ。」と竜二。
「わかってねーよ。
 お前たちの今の顔には、福がない。幸福の福。
 ちょっと笑ってごらんよ。」とどん兵衛。
二人とも、ニッと笑ってみせる。
「なんだそれは。お前らそんなに日差しがまぶしいか?
 お前らデーゲームの外野手か!?」
「可笑しくもないのに笑えっかよ!
 こっちは組が解散するかしねーか、大事な問題一人で抱えてんだよー。」
「俺だってせっかく帰ってきたのに調子出ねーし、
 メグミちゃんと気まずくなって連絡とれねーし。」
「マジかよ!?」「ダメかもしんない。」
師匠はそんな二人に言う。
「ダメだって笑うんだよ。
 どんなに追い込まれたって、平気で笑ってられるのが本物なんだよ。」

「なぁ師匠。この間の、俺に名前くれるとか、くれないとかの話。」
「あぁ、迷惑か?」
「いや、迷惑じゃないけど。」
虎二が竜二を見る。
「俺はいいっすよ。別に欲しくねーし。」
「俺もいらねーよ。」
「何言ってんだよ!どん兵衛は林家亭の大看板だ!
 先代の5代目どん兵衛なんて、文化勲章貰ってるんだぞ。」
「俺は!
 師匠が俺の為につけてくれた小虎って名前が大好きだ。
 仙台だか盛岡だかしんねーが、会った事のないヤツが付けた名前より、
 俺は小虎が好きだ。」
師匠は小虎の言葉に感動する。
「やっぱ勝てねーわ。」と竜二。
隣の部屋から、小百合の泣き声が。
「小百合ちゃんが、泣いてる。」とどん兵衛。

そこに保がやってくる。
「メグミがお邪魔してないかなって思いまして。
 気晴らしに友達とドライブに出かけるって出てったんだけども、
 あまりにも帰りが遅いので心配になってね・・・。」

その頃メグミは男たち4人と車に乗り、『ラブ・マシーン』を歌い
盛り上がっていた。

「友達って、仕事関係?」
「いや、何でも、ケイタイサイトウが、」
「誰だよ、ケイタイサイトウって。」虎児が聞く。
「携帯サイトじゃね?」

メグミが保に携帯を見せて、
「これってどういう意味だ?」と聞く。
『やっぱレンタンの方が確実だよー!』
と書いてある。
「レンタン?レンタンカーのことじゃないか?」
「レンタカーで行くんだ~!」メグミが嬉しそうに言う。

「レンタンって書いてあったのか?」
竜二が保に詰め寄る。
「レンタン自殺!自殺支援サイトだろ!」

夜。
メグミを乗せた車は、人気のないところに止められる。
「ねーねー何でみんな孫りないの?孫りようよ!」
レンタンを見たメグミ。
「バーベキュー!?楽しいーーー!!」と大喜び。

保によると、夕方に品川で待ち合わせして、箱根方面にに行ったらしい。
「品川心中かよ・・・。」と虎児。
竜二は虎児に車のキーを借り、飛び出していく。
保が竜二の後を追う。
「俺も行くぞ!」と虎児。その時虎二の携帯が鳴る。

虎児が流星会に駆けつけると、部屋は荒らされ、組長が頭を殴られ
怪我していた。
「気~つけや。メガネの破片が落ちてるさかい。」
虎児が組長の壊れたメガネを拾い、何があったのか銀次郎に聞く。
銀次郎がトイレの紙を変えているときに、押し入られたのだ。
「あいつら人間じゃない。メチャクチャしよるで。」と組長。
「日向さんは?」虎児が銀次郎に尋ねる。
「呼ばんでえ~。新婚やさかい。」と組長。
「電話しろ、早く!」
「無理っすよ。日向さんも襲われたんですよ、先週。
 足と右肩、あばら3本いかれて入院してるんすよ。」
「何で早く言わないんだよ!」虎児が銀次郎に掴みかかる。
「お前のためや、虎!
 日向に黙っておくように言われたんや。」と組長。
「どうするんですか、兄貴。
 ここまでされて黙ってるんですか!?」と銀次郎。
「行ったらあかん!行ったらあかんぞ、虎!」と組長。
「そんなに堅気になりたいんすか。
 そんなに堅気が偉いんすか!?」
「黙っとれぼけっ!
 今行ったら後戻り出来へんぞ!」
「黙ってないで何か言えよ!」
「お前はワシらの希望の星だ!」
「うるせーーっ!!」
虎二は震えながら腕時計を外す。

小虎の高座。だが小虎はまだ寄席に来ていなかった。
楽屋をウロウロと落ち着かない様子のどん兵衛。
客席からは「小虎~!出て来い!」と声がかかる。
「はぁ。もう限界か。私が行くか。」
そこへ竜二がやってくる。
竜二は高座に上がる準備を始める。
「お客が待ってるのは小虎だよ。」
「来てねーもんは、しょうがねーだろ。」
「自惚れてるんじゃねーよ!
 お前、まだ見習いだぞ。
 小虎の代わりが務まると思ってんのか!?」
竜二が土下座をして頼み込む。
「やらせてくれ師匠。やりてーんだよ。
 面白い噺を面白くしゃべりてーんだ。
 今なら俺の品川心中が出来るんだ。
 今やんねーと、一生出来ねー。」
「竜二・・・。」
「自分のためにやりてーんだ。
 小虎兄さんの為でも、あんたの為でもねー。頼む!!」
「顔を上げてごらんよ、小辰。
 笑ってごらんよ。」
竜二が顔を上げ、優しい笑顔を見せる。
その笑顔に頷き、どん兵衛が言う。
「行ってきなよ。」
「はい。」

小辰が高座に上がる。
「小辰だよ!小辰じゃねーか。」客がざわめく。

「え~。林家亭小辰です。
 恥ずかしながら、戻って参りました。
 ドラゴン・ドラゴン・チャン・ドンゴーン!」
会場、し~ん。
「おっしゃーっ!温まってきた、俺が!」

その頃、虎児は銀次郎と共にウルフ商会へと向かっていた。
木刀で入り口に立つ男を殴りつけ、
「どうぞ。」と銀次郎を立てる。
銀次郎を筆頭に、二人はウルフ商会に突入。
そして大暴れ。
自分の組の男たちがやられていくと、力夫は机から銃を取り出し、
銀次郎に向ける。
虎児が力夫を木刀で一発、素手で一発殴り、銃を奪う。
「どうぞ。」虎児が銀次郎に銃を渡す。
「動くな!!」

高座の小辰。
「品川にお染という花魁がおりまして。
 これがまぁ、黙っていると超のつく美人。
 しゃべると少々なまりがキツイ青森の生まれなんですが。
 そのお染が、男どもに手紙を書いて、約束をとり交わし、
 品川で待ち合わせをして出かけていった。
 今でいう日帰り旅行。
 ところが!この男どもには、別の目的があったんです。」


車の中。
「では・・・そろそろ。」男が火をつけようとする。
「待って!メグミ、ヤキソバが食べたい!」
「あの、バーベキューじゃないんですよ。」
「ねぇ、誰か買ってきて。」メグミが可愛くお願いする。
「はい。」即答する男。

「そう。練炭自殺。
 まぁ、今も昔も命の重さがわからないってヤツがいたもんで、
 一人で死ぬ勇気もねーってんで、道連れを募って心中しようって
 腹なんです。
 そうとは知らないお染は、」


車の中でヤキソバをつくり、車内は煙だらけ。
「ねぇ、窓開けない?開けようよ。」
だが、男たちに止められ
「ごめん・・・ガマンする。」

「その頃。
 お染の情夫であります反物屋の竜と、昔馴染みの保が
 奉行所の助けを借りてお染の行方を追っておりました。」


「メグミちゃーん!!」
「どこだー!?」
「めぐっぴー!!」

車の中。
「静かになったと思ったら、寝ちゃいました。」
「脚、長いですね~!」
「こんな美人と死ねるなんて、なんかいいですね~。」
「生きてるうちに、1度でいいから、こんな女性と
 お付き合いしたかったです。」
「まだ、間に合うんじゃないですか?
 ・・・冗談ですよ。」

メグミの安らかな寝顔を見つめる男たち。
「死なないで欲しい!」
「死なないで!」
「死にたくない」
「死にたくないです。」

「死にたくないー!!」

「助けて下さい!!」男たちが一斉に慌て始める。

翌朝。
竜二が1台の車を見つける。だが、車の中は空だった。

メグミは草むらに寝かされ、男たちは「起きて下さい!」と
メグミを目覚めさせようとしていた。
「なんかあれみたい!白雪姫と妖精!」
「キスしたら起きたりして。」
4人が一斉にキスしようと顔を近づけ、頭をぶつける。

「なにやってんるだ!オレのメグミちゃんに!!」
竜二が駆け寄るが、4人の男たちに追いかけられる。

その生命力はとてもさっきまで死のうとしてた人間とは
思えません。やがてお染が目を覚まし、
「あれ?おまえさん方、何をしてるんだい?」


「ここ・・・どこ?」メグミが目覚める。
「姫を逃がすな!」男たちが走ってくる。
竜二は男たちを追い抜かし、メグミを追う。

保はその時、「どこに行ったのかな~。」と呟きながら
自然の中で用を足す。
そこへ、メグミが走ってきた。
「保ちゃん?助けてー!!」メグミが保に飛び掛っていく。
保の腰が木に激突!
「怖かった。メグミ恐かったー!」
保にお姫様抱っこされたメグミがそう言った。

「何やってるんだい!大の男が4人して情けない。
 見ろ、このおっさんを。」
 さすがお百姓さんだ~。
 しっかりお染を抱きかかえてる。」


「いやいや。滅相もない!俺はとうに、」

「腰が抜けてしまっただ。」
小辰が客席に頭を下げ、反応を伺う。
しばしの沈黙の後、拍手が沸き起こる。
「よー小辰!」と声がかかる。
「腕、上げたな、小辰!」と辰夫。
「竜ちゃん、大好き~!」とメグミ。
「日本一!」と保。
小辰が嬉しそうに客席を見回した。

純喫茶よしこ。
「は~い!やきそばお待たせ。」よしこが運ぶ。

オムライスを食べながら、
「どうしたんだろうな、小虎は。」とどん兵衛。
「小虎小虎って、俺の落語にコメント無しかよ!」と竜二。
「品川親心中っていったって、品川で待ち合わせしたってだけの
 噺じゃないか。」
「細かいことは大目に見ろよ。
 3年ぶりなんだから。」
「まぁまぁまぁまぁ、たいしたもんだよ。
 がんばなさいよ、はい。」
どん兵衛が手を出し、授業料を求める。
竜二はポケットに入っていた200円をどん兵衛の手に乗せる。
「お前失礼だねー。これじゃたばこだって買えないじゃねーか。」
「返せよ!いつも小虎さんには返してんじゃねーか。」
「何言ってんだ。俺から小虎に返すんじゃねーか。」
「とにかく、入門は認めてくれたんですよね?」
「ウルフ商会ってこの間、話に出てた・・・あれじゃないの?」

どん兵衛がテレビのニュースに気づく。

『男は銃のようなものをもっており、
 今入った情報によりますと、男は新宿流星会の山崎、
 新宿流星会の山崎と名乗り、
 取締役の梶力夫さんほか数名を人質にとっているようです。』

谷中家では小百合たちがこのニュースに驚いていた。

新宿流星会では、組長がニュースを心配そうに見つめていた。

ウルフ商会。
「しつこいようだけど、もう一回だけ言っておくぞ。
 流星会のシマ荒らしたら、テメェ今度は生きてられると思うなよ!
 うちの坊ちゃんはよ、気が短けーんだよ!」
虎児が力夫を脅し、銀次郎は銃を構えていた。
力夫は何度も頷いた。
「よーし。」
虎児は力夫を解放し、銀次郎の持つ銃を手に取る。
「自首してきます。」
「兄貴!」
虎児は銀次郎の首に掴みかかって言う。
「兄貴じゃねーだろ!・・・虎だよ。」
「虎・・・俺は、」
「うまく逃げてください。2代目。」
虎児はそう言い頭を下げる。
「行け早く!!」虎児に大声で言われ、銀次郎は部屋を出ていく。

拳銃を持ち両手を上げ、虎二が外に出て行く。
虎二はすぐに警察に取り押さえられ、そして手錠がかけられる。
その様子はテレビで生中継されていた。
「親父・・・小虎さん、笑ってるよ。」
どん兵衛の目からは涙がこぼれていた。
虎児が笑顔で、パトカーに乗り込んだ。


虎児がラストに見せた笑顔も、竜二が楽屋で師匠に見せた笑顔も、
素敵でした。

虎児は、竜二を落語の世界に引き戻し、
銀次郎を2・目に育て上げた。
林家亭を継ぐことも、流星会を継ぐことも、虎児には選択出来る身なのに、
二組の親子の絆をしっかりと結んだあと、そっと身を引くような展開が
悲しいです。
家族の愛を知らない虎児が、どん兵衛や組長の父親のような愛情に触れ、
成長することが出来たんだろうなー。
竜二は虎児を小虎兄さんと呼ぶようになり、
銀次郎は虎児を虎、と呼ぶようになる。
銀次郎も竜二も、ここへ来て、ぐっと成長を見せてくれました。
あの笑顔は、師匠へのメッセージだったのかな。
師匠の涙につられました。
ヤクザと落語家という、二つの特別な世界を描いたドラマでしたが、
その基本は、人の絆だったんですね。

今回のお題は品川心中。
メグミちゃん、レンタカーとレンタンを間違えて
集団自殺のメンバーになっちゃうとは。
メグミの王子様は、元夫だった、ということかな。

そして竜二が高座で披露した『品川心中』は虎二のように
オリジナルバージョンでした。
『品川心中』に出てくる紋日(衣替え)、玉帳(お客リスト)、カンパ、
そして"一緒に死んでくれる相手を探す"という目的などが、
現代に違和感なく現れてました。毎度、感心しちゃいます!

次週最終回。
虎児が谷中家で笑顔を見せてくれますように!

※見直しましたが、ところどころ文字化けしてるかも。(汗)
 



参考にさせていただいたサイト:
東西落語特選さま『品川心中』

次週の予習に:
コウの鑑賞人blogさま落語『子は鎹(かすがい)』